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第四章 田舎娘と古代竜
大きな狼さん登場
しおりを挟む息を殺し岩陰に隠れる私たち。
ガザガサという音が強くなる。やがて、姿を現したそれは、一頭の大きな灰色の狼だった。皆、一瞬気を失いかけたんじゃないかな。私も気が遠くなりかけたわ。噛まれたら、即アウトだもん。
『あれは、ユーリアたちを襲いに来たんじゃないよ』
ハクアの声で、私はなんとか恐怖心を圧し殺すことができた。
『ありがとう、ハクア』
狼はなにか布に包んだ物を持っていた。それを平地の中ほどまで来て丁寧に置く。そして、チラリと岩に目線を移してから踵を返し、森の中へと戻って行った。
音がしなくなって、暫くしてから、私たち全員、大きく息を吐いてから岩陰から出てきた。
「……なっ、なんですの!? 危険な獣はいないって書いてなかった!!」
小声で息巻いてる。さすが、王女殿下。精神力ってやつを鍛えてるんだね。復活が早いよ。頼もしいなって思ったよ。
「危険な狼さんではなかったみたいですよ。ほら、狼さんが持ってきたの果物ですよ」
狼が運んできた布の結び目を解くと、コロリと赤い果物が転んだ。私はそれを手に取ると、皆に見せた。
「……どうして、果物を!?」
セシリアが私の隣りに立ち、私の腕の中にある果物を覗き込む。
「そんなの、決まってるでしょ。私たちに対しての差し入れよ!!」
声高らかに、王女殿下は答えた。
「差し入れですか……?」
「私も、王女殿下の言う通り差し入れだと思う」
不審そうなセシリアに私はそう言うと、木の切り株の上に果物を置いた。
危険な獣はいないって書いてあったけど、獣自体がいないとは書いてなかったものね。そんなことを考えていたら、ふと気付いた。レイティア様が一言も声を発していないことに。
私はレイティア様に視線を向けた。レイティア様は真っ青な顔でカタカタと小さく震えていた。
そりゃあ怖いよね。あんな大きな狼を間近で見たんだから。怖くて言葉を失うわね。魔法科って言っても、まだ魔物の討伐に出たことないし、深窓の令嬢だもの、危険な獣自体見たことないんじゃないかな。学術的に知っていてもね。
私はレイティア様の所に行くと、その震える手を両手で包んで握り締めた。そこでやっと、レイティア様の顔に赤みが戻ってきた。
「大丈夫ですよ、レイティア様。あの狼さんはどこかに行ってしまいました。さぁ、休憩しましょ」
にっこりと微笑みながらそう提案すると、ぎこちないけど、小さな笑みを返してくれた。
「…………そうね……」
レイティア様はなにか言いたそうだったけど、その言葉を飲み込んでいた。私はそれに気付いてたけど、ここでは訊かなかった。マイナスな言葉しか返ってこないと思ったから。
私たちは倒れた丸太に移動し座る。
「先輩たちは、どの果物を食べますか?」
「食べるの!?」
そう訊いたら、セシリアに訊き返されたよ。
「えっ!? 食べるよ。せっかくの差し入れだし、食料はありがたいでしょ。食べれる時に食べとかないと」
そう答えたら、セシリアにすっごく呆れられたよ。なぜ?
「私は、この赤い果物にしますわ」
王女殿下が答える。一気に視線が王女殿下に向いた。それを気にせずに、王女殿下は赤い果物を手に取った。
「レイティア様はどれにしますか?」
「…………私は、後でいいわ」
まだショックが抜けてないみたい。なんか、私と王女殿下を珍獣のような目で見てるのは、気のせいだよね。
「セシリアは?」
「そうだね、私はこの緑色の果物にするよ」
「じゃあ、私は赤い果物で」
私は王女殿下が口にするより早く、その果物を頬ばった。一応、毒見にね。皆、赤い果物を頬ばる私を見ている。
「瑞々しくて美味しい!! 思っていたよりも甘酸っぱいですよ。味は、リコの実に似てますね」
実際のリコの実はもっと小さくて、甘みより酸っぱさが勝ってるかな。だから、生では食べなくて料理に使ってる。お肉と一緒に煮たり漬けたりすると、お肉が柔らかくなるんだよ。
王女殿下が恐る恐る口にすると、私と同じ反応が返ってきた。セシリアも頬張る。
「あっこれは、シナの実に似てるよ。でも、瑞々しさと甘みは断然、この実の方が美味しい」
ご満悦な表情のセシリア。木の間から差し込む光の演出で、天使度ダダ上がりだよ。王女殿下も見惚れてるし。近くで見ると、破壊力あるよね。
「はい、レイティア様。どうぞ」
私はレイティア様がどっちを選んでもいいように、赤いのと緑の果物を差し出した。一瞬戸惑いながらも、レイティア様は紅い果物を手に取る。
「とっても、美味しいですよ」
にっこりと微笑むと食べてくれた。よかった……
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