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第四章 田舎娘と古代竜
三つの約束事
しおりを挟む「皆様にお願いがあります」
そう告げると、皆の視線が私に注がれる。私は一旦区切ったうえで、口を開いた。
「これから先はなにが起きるかわかりません。なので、皆様に約束してほしいことが三つあります。第一に、単独行動はしないこと。トイレの時もです。第二に、できる限り魔法は使わないこと。第三に無理と我慢をしないことです」
「第一と第三はわかるけど、なぜ魔法を使ってはいけないのかしら?」
レイティア様が訊いてきた。
「魔力の温存が一番の目的ですが、魔法を使うと、森に棲むものに気付かれる可能性があります。中には、温度に反応するものもいますから」
「爬虫類系の魔物や生物は、そうだと聞いたことがあったわね」
王女殿下の言葉に私は頷く。爬虫類系って聞いて、レイティア様の顔色が悪くなった。王女殿下とセシリアは平気そう。貴族様を抜きにしても苦手な人多いよね。
「あとは、この課題に書かれていることを全面的に信じることはできません。この課題を書いた者が危険ではないといっても、私たちにとっては危険な生き物がいるかもしれない。それを考えたうえで、できる限り気付かれない方法で移動すべきです。それに、体力の回復は休めば戻りますが、魔力の回復は体力の回復の倍の時間が掛かります。底をつけば、昏睡状態になります。そうなったら、即アウトです。なので、魔法はいざって言う時の切り札として置いとくべきでしょう」
「「「わかったわ」」」
真面目な顔で皆頷いてくれた。
注意を払いながら、私たちはオリエンテーションを再開した。先頭を歩くのはセシリア、最後尾がレイティア様、二番目が王女殿下で、三番目が私。戦闘術を習ったことがあるから、セシリアが先頭になったの。
森の中を矢印通りに進んでいると、ポツリと沈んだ声が降ってきた。
『……ユーリアは僕を信じてくれないんだ』
とっても落ち込んでるね。ハクアも危険なものはいないって言ってたからね。
『ハクアを信じてないわけじゃないわよ。私とセシリアなら、ハクアのことを知ってるから無条件に信じて行動できるけど、王女殿下やレイティア様は違うでしょ。警戒されちゃうよ。下手したら、犯人にされちゃうかも。それに、危険なことには変わりないんだから、用心にこしたことはないよ』
ハクアのことは知られるわけにはいかないからね。ジュリアス様とライド様と約束したもの。ハクアにもね。
『……ユーリアは、僕のこと好き?』
『好きに決まってるでしょ。大好きすぎて、今もギュッと抱き締めたいよ。心配させてごめんね、ハクアを傷付けたよね』
当然、即答。胸が締め付けられて痛いよ。
『オリエンテーションが終わったら、ギュッとしてくれる?』
可愛いお願いきました!!
『ギュッとだけじゃなく、頬ずりもしちゃうよ。キスもしちゃう』
『キ、キスはだめ!!』
めっちゃ、拒否されたよ。かなり悲しい。
『だめなんだ……』
『そういうのは、大人になってからだよ!!』
怒られちゃった。でもすでに、私のファーストキスは我が家の家族たちに奪われてまくってるけど。そう素直に答えたら、また怒られそうなので止めた。
皆、無言のまま歩いてる。
何度目かの矢印を過ぎたところで、私は小声で提案した。
「そろそろ、休憩しませんか? 平地に出ましたし」
私の声に反応してセシリアが止まったので、全員その場に止まった。
「まだまだ、大丈夫ですわ」
王女殿下が言う。
「無理はしないと約束しましたよね、王女殿下。結構大丈夫って思ってても、意外と疲れているはずです。緊張で、疲れを感じにくくなってるだけですから」
こまめな休憩は必要だけど、飲み物と食べ物には限界がある。最悪、水は魔法でだせるけど。食べ物は……オヤツならカバンの中に入ってるけど。それにも、限界があるよね。
そんなことを考えてると、森の中からガサッガサッという音がした。慌てて私たちは倒木と岩の後ろに隠れる。皆、息を飲む。私はレイティア様の手を押さえ、首を小さく横に振った。
そうしていると、すぐに、音の正体が姿を現した。
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