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第四章 田舎娘と古代竜
第二課題
しおりを挟むしばらく歩くと、第二課題の場所に到着した。
「王女殿下、レイティア様、私たちって何位なんでしょう?」
オリエンテーションって競争じゃないけど、やっぱり上位を目指したいじゃない。
「さぁ、それは。他の組とも会いませんし、そもそもオリエンテーションは、課題をクリアすることが目的ですよ」
「相変わらず頭固いわね、レイティアは。誰よりも早くクリアしたいと思うのはおかしいことかしら」
やっぱり、性格正反対だわ。石橋叩いて渡るタイプと猪突猛進タイプ。そんなことを思っていたら、ハクアの声が聞こえた。
『ユーリア、ちょっと止まって。なにかおかしい』
ハクアに言われた通り、私とセシリアは止まる。
『おかしいって?』
『人の気配がしない』
「ユーリアさん、どうかしましたか?」
ハクアと念話していると、レイティア様が心配げに尋ねてきた。
「あの……ちょっと、疑問に思ったのですが、おかしくはありませんか? 人の気配が全くしません。他の生徒の話し声も。去年のオリエンテーションもこんな感じだったのですか?」
確かにおかしいよね。合同オリエンテーションだよ。何組かに分かれて森には入ったけど、全く会わないどころか、生徒の声さえ聞こえないなんて、ちょっと不自然すぎる。
「……去年は、そんなことありませんでしたわ」
レイティア様が答える。
「そうよね、去年は騒がしかったわ。それに、先生が課題を直接手渡してくれましたわ。その時、スタンプもおしてもらって……」
そこまで答えて、ハッとする王女殿下。それはレイティア様も同じでした。
「この森の中って、先生もいるんですよね? 今回、やり方を変えたのですか?」
「生徒の安全のためにいるはずよ。伝統的行事よ、早々にやり方わ変えはしませんわ。もし変えたなら、なにか言ってるはずよ、お兄様が」
普通、そうだよね。学園内と言っても森の中。迷子になる生徒もでるかもしれない。教師は生徒の安全を護らなくてはいけないもの。
「王太子殿下が漏らすのは、それはそれでいて問題ですけどね」
レイティア様、冷静~。
『この森には、ユーリアたち以外に人はいないよ』
『ということは?』
『なにかしらの意思が働いているってことだね』
『意思? 魔物の気配はする?』
『しない。この森に魔物はいないよ。危ない獣もね』
ハクアの言葉にホッと胸を撫で下ろす。魔物や獣がいたら、確実に餌になるコースだよね。
『いないのなら、慌てることはないわね』
「なに、ショックを受けてますの。らしくはありませんよ」
ハクアと念話をしていると、王女殿下に発破を掛けられた。そういう、王女殿下の顔色が悪いのは見なかったことにしとこう。
「それにしても、どうやって? なんの目的でこんな手の込んだことを?」
そう冷静そうに言うレイティア様の手が微かに震えている。そうだよね。普通にオリエンテーションしてたら、こんな目にあったんだもの仕方ないよね。怖いのも不安なのも誰も一緒。私はレイティア様の手を握ると言った。
「それを、今考えても答えは出ません。ならば、この状況を打破するためにどうすべきか、考えた方がいいと思います」
「私も、ユーリアの考えに賛成かな」
「……わ、私もそう思ってましたわ」
セシリアも王女殿下も賛同してくれた。あとはレイティア様だけ。レイティア様は厳しい表情で私を見ています。
「…………そうですね。とはいえ、打破すると言ってもどうやってするのです?」
レイティア様が訊いてきた。皆の視線が私に集まる。
「とりあえず、進むか、進まないかですね」
「つまり、このままオリエンテーションを続けるか、助けをこの場で待つか、ということですね」
レイティア様の言葉に私は頷く。
私以外の全員が、助けを待つことを選択した。まぁ、普通そうだよね。私たちが行方不明になったことはすぐにわかるはずだから、保護されるまで待つのが当然の選択。
「……一応、聞いてあげるわ。なぜ、進むことを選択したのかしら?」
まさか、王女殿下に訊かれるとは思わなかったからビックリしたよ。レイティア様もセシリアも驚いてる。
「理由なこれです」
私は第二課題の紙を広げた。
【この森には魔物も危険な獣もいない。個に問おう。続けるか否か】
「信じるの……?」
今度はレイティア様が訊いてきた。
「一応は。助けが来るのを待つのが正解かもしれませんが、いつ来るかわからない助けを待つのは疲れると思うんです。それに、本当に魔物たちがいないとは限らない。そんな状況下で、食べ物もなく待ち続けるのは……なら、いっそうのこと飛び込んでみようかと。文面から見て、なにかしらの意思が働いているように思えるので」
「正気?」
恐ろしいものを見るような顔をされたわ。
「はい。でも、強要はしません」
「止めても、一人で行くということですか!?」
レイティア様の言葉に小さく頷く。
「だって、書いてあるので、個に問うと」
つまり、これはもうオリエンテーションじゃない。自分の意思で判断し行動することを求めている。理由はわからないけどね。私一人なら、残る選択をしていたかも。でも、私にはハクアがいるもの。一人じゃない。
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