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第四章 田舎娘と古代竜
図書委員のお姉さん
しおりを挟む「……図書委員のお姉さん」
小さな声でそう呟いたつもりだったけど、意外に響いたみたい。お姉さんの耳にも王太子殿下の耳にも届いていた。クスッと笑われたよ。恥ずかしいな。
「こんにちは、ユーリアさん、セシリア様」
お姉さんは、私たちに挨拶してから王太子殿下の隣に腰を下ろした。自然な流れだったから、ちょっとビックリした。もしかして、個人的な知り合いなのかな。
「知っていたのか?」
王太子殿下の問い掛けに、お姉さんはニコッと笑い答えた。
「貴方と違って、図書室をよく利用してくれるもの」
うん、かなり親しい間柄とみたね。となると、お姉さんはそれなりの地位の令嬢になるよね。でも、あの二人のような嫌な感じはしない。
「寄る暇がなくて悪かった。彼女は、私の幼馴染でロベール侯爵令嬢だ」
やっぱり!! 王女殿下に公爵令嬢、高位貴族看破しちゃったね。入学して間もないのに。
「レイティア・ロベールと申します。よろしくね」
品がある笑顔ってこういうのを言うんだね。でも、高位貴族の必須アイテムは持ってないけど。
「ロベール侯爵家って、確か、宰相様を代々務めている家系ですね」
こういうやり取りは、セシリアに頼むのが正解。私は聞きながら、少し冷めたミルクティーを飲む。冷めても美味しい。あっ、このクッキーもサクッとしてて美味しい。ミルクティーと一緒に食べると、さらに美味しくなったよ。
図書委員のお姉さんって、宰相様の娘なんだ。宰相って、教皇様や聖女様を省いて、この国で二番目に偉い人だよね。あっ、だから、幼馴染なんだ。納得。
「ええ、その関係で、王宮には何度も遊びに行ってましたから、よく遊んでましたね。王太子殿下と王女殿下と一緒に」
「それで、ロベール侯爵令嬢様は」
「レイティアとお呼びください、セシリア様。侯爵令嬢もいりませんわ」
話している途中で訂正されたセシリアは、あらためて話を続けている。ちゃんと聞いてるよ。
「レイティア様は、王女殿下の仲がよろしいのですか?」
オリエンテーション、王女殿下と組むからね。
「いいえ、仲はよくありませんよ」
すっごい良い笑顔で仰ったよ。
「……仲悪いのですか?」
「はい、悪いです。できれば、視界に入れたくはありませんね。話が通じませんから。それに、本を大事にしない方は好きにはなれませんの」
コロコロと微笑みながら、実の兄の隣に座りディスってる。
宰相様の娘って感じがするわ。まぁでも、大事にはしないタイプだよね。本を貸したら、折り目が付いてボロボロになって返ってくる気がする。実際そうかも。王太子殿下は苦笑しながらも咎めないし。あ~なんとなく、力関係がわかったわ。防波堤の意味もね。
「つまり、レイティア様がいらっしゃると、王女殿下は大人しくなるということですか?」
私も会話に加わります。
「私を見れば逃げていきますからね」
逃げるよね。全く違うもの。性格っていうか、性質が。レイティア様と王女殿下、絶対合わないよね。二人が一緒にいたら、王女殿下は小さくなって隅にいそう。なにしても勝てなさそうだからね。そんな関係性だから、王太子殿下はレイティア様をおしたんだね。ちょっと、王女殿下が可哀想になったよ。
「なんとなく、想像できます。でも、大丈夫ですか? オリエンテーションの相手が代わったこと、当日まで内緒にはできないでしょ」
隠し通せたらいいけど、魔法学の実技で組んだりするから隠せないと思う。
「さすがに、あの王女殿下も逃げはしないでしょ。必須ですから。もし逃げたとしても、こちら側は痛くも痒くもありません」
いやぁ~ほんとに良い笑顔だよ、レイティア様。もしかして、腹黒キャラ。結構好きだね。
「確かにそうですね。オリエンテーションが楽しみになりました」
私もレイティア様に負けないくらい良い笑顔で答えたよ。
「それは良かったですわ。オリエンテーション、楽しみましょうね」
「はい、レイティア様。王太子殿下、ありがとうございます」
悩みが一つ減ったよ。ニコニコと笑う私とレイティア様。セシリアは微妙な笑みを浮かべてる。王太子殿下はなぜか引きつった笑みを浮べてたよ。
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