33 / 74
第三章 学園生活の始まりです
根もはもない噂
しおりを挟む平民である私が、魔法学の実技を飛び級したことは、その日のうちに学園内に広まった。まさか、騎士科まで広がってるとは思わなかったよ……食堂で騎士科の学生が噂してたから。ほんとマジ、止めて。
今私は、見世物小屋の動物みたいね。でもまぁ、それは覚悟してたけど、私を疲れさすのは別のこと。地味にメンタルが削られてる。
「……ユーリア、疲れてるね」
はしたないけど、机に突っ伏す私の横に座ったセシリア様が、小さな声で話し掛けてきた。
「根もはもない噂だけは、マジで止めて欲しいです」
基本スルーだけど、それでも噂は耳に入ってくるからね。大概のことは無視してるけど、ある噂がまことしなやかに流れてるんだよね。困ったことに。
なんでも、私がある貴族の隠し子だらしい……それも高位貴族の。私は根っからの平民なのに、あるわけないでしょ。
そう大きな声で否定したいけど、隠し子って言われる背景には思い当たるから手をこまねいているの。私の魔力量の多さと、教皇様が後継人に付いてること、そしてとどめが、セシリア様が私の傍にいることかな。前にも行ったけど、貴族が普通平民をサポートしないからね。普通に友人として接しているだけなのに、なんで……? そんなに、平民と貴族様って接点がないのかな。それよりも、持つこと自体がダメなねかな? だったら、悲しい。
「でも、そう噂されてもおかしくないけどね」
困り顔のセシリア様。いつもすごい。噂の内容も理由もちゃんとわかってる。
「うん……それはわかっています。だから、下手に否定できなくて。正面切って訊いてくれれば否定できるのに」
説明しにくいからね。私が姫聖女だってことは内緒だから。
「悲しいことに、誰も訊いてこないよね」
「私が問題児だからですか?」
「まぁそれもあるけど、公爵令嬢が停学になった件が一番の要因だと思うな」
「確かに。私もお咎めを受けると思ってました」
学園内とはいえ、貴族様に反発し反論したからね。
「それが、噂に信憑さを出す結果になったね」
「ですよね。でも、後悔はしてませんよ」
私がそう言うと、セシリアは困り顔と嬉しさ半分の笑顔を浮かべる。
「今後はどうする?」
「そうですね……めんど向かって、無茶なことを言われたら反論しますね」
こっちからは行きませんけど、このスタンスは変えません。
「誰でも?」
セシリアの目が不安そうに揺れている。セシリアから見たら、私って危なっかしい子って映ってるよね。
「言われた内容によりますね。まぁできる限り、人が集まっているところには行かないので安心してください」
食堂は仕方ないけど。基本、他の学生と接点を作らなければ大丈夫でしょ。
「そうは言ってられないと思うな」
「どういう意味ですか?」
「忘れてない? 入学して一週間後にオリエンテーションがあること」
セシリアの台詞に固まっちゃったよ。確か……入学の時にもらった冊子に、そんなこと描いてあったような……
「その顔は忘れてたね。新入生と上級生、四人一組で執り行われる伝統行事だよ」
「マジ?」
「大マジ。成績順だから、新入生は私と組めるとして、上級生は高位貴族になるかもしれない。今日発表されるはず」
セシリアと組めるのは心強いよ。上級生は、できれば下位貴族がいいな。公爵令嬢の件があったからか、高位貴族は苦手なんだよね。
「黙って、大人しく後ろを歩くことにするわ」
どっちにせよ、そうするのが一番だよね。
「私も一緒だから安心して」
「ありかとうございます。ほんと、セシリアって頼もしくて格好良いですね」
ニコッと笑う。
「私は、ユーリアの方が格好良いと思うけどね」
「私が格好良い? ただの、生意気な子供でしょ」
「ユーリアが格好良いって知ってるのは、今は私だけ。なんか、嬉しいな」
天使様の笑顔は尊い。セシリアの笑顔を見た数人の生徒が真っ赤になって蹲ってるわ……少しは免疫のある私でも赤くなるのに、免疫がない人ならそうなるよね。遠巻きでセシリアを見ている子もいるし。
「……そのうち、ファンクラブができそう」
私はセシリアが聞こえないほど小さな声で、ポツリと呟いた。そうなると、私は完全に悪役になるわね。まぁ、それは、なった時に考えればいいことね。離れるつもりはないけど。
とりあえず今は、オリエンテーションの相手が人に無関心な人がいいな。なんて願ってたけど、まさか、あの御方と組むとは思わなかったわ。
オリエンテーション、休んでもいいですか?
「それは無理だよ。休んだら、留年だよ」
声に出てた!? 恥ずかしい。
「どうして!? そこまで、オリエンテーションに力入れてるの」
真っ赤な顔を隠しながら愚痴る。
「伝統行事だからだよ」
恐るべし、伝統行事!!
21
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる