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第三章 学園生活の始まりです

根もはもない噂

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 平民である私が、魔法学の実技を飛び級したことは、その日のうちに学園内に広まった。まさか、騎士科まで広がってるとは思わなかったよ……食堂で騎士科の学生が噂してたから。ほんとマジ、止めて。

 今私は、見世物小屋の動物みたいね。でもまぁ、それは覚悟してたけど、私を疲れさすのは別のこと。地味にメンタルが削られてる。

「……ユーリア、疲れてるね」

 はしたないけど、机に突っ伏す私の横に座ったセシリア様が、小さな声で話し掛けてきた。

「根もはもない噂だけは、マジで止めて欲しいです」

 基本スルーだけど、それでも噂は耳に入ってくるからね。大概のことは無視してるけど、ある噂がまことしなやかに流れてるんだよね。困ったことに。

 なんでも、私がある貴族の隠し子だらしい……それも高位貴族の。私は根っからの平民なのに、あるわけないでしょ。

 そう大きな声で否定したいけど、隠し子って言われる背景には思い当たるから手をこまねいているの。私の魔力量の多さと、教皇様が後継人に付いてること、そしてとどめが、セシリア様が私のそばにいることかな。前にも行ったけど、貴族が普通平民をサポートしないからね。普通に友人として接しているだけなのに、なんで……? そんなに、平民と貴族様って接点がないのかな。それよりも、持つこと自体がダメなねかな? だったら、悲しい。

「でも、そう噂されてもおかしくないけどね」

 困り顔のセシリア様。いつもすごい。噂の内容も理由もちゃんとわかってる。

「うん……それはわかっています。だから、下手に否定できなくて。正面切って訊いてくれれば否定できるのに」

 説明しにくいからね。私が姫聖女だってことは内緒だから。

「悲しいことに、誰も訊いてこないよね」

「私が問題児だからですか?」

「まぁそれもあるけど、公爵令嬢が停学になった件が一番の要因だと思うな」

「確かに。私もおとがめを受けると思ってました」

 学園内とはいえ、貴族様に反発し反論したからね。

「それが、噂に信憑しんぴょうさを出す結果になったね」

「ですよね。でも、後悔はしてませんよ」

 私がそう言うと、セシリアは困り顔と嬉しさ半分の笑顔を浮かべる。

「今後はどうする?」

「そうですね……めんど向かって、無茶なことを言われたら反論しますね」

 こっちからは行きませんけど、このスタンスは変えません。

「誰でも?」

 セシリアの目が不安そうに揺れている。セシリアから見たら、私って危なっかしい子って映ってるよね。

「言われた内容によりますね。まぁできる限り、人が集まっているところには行かないので安心してください」

 食堂は仕方ないけど。基本、他の学生と接点を作らなければ大丈夫でしょ。

「そうは言ってられないと思うな」

「どういう意味ですか?」

「忘れてない? 入学して一週間後にオリエンテーションがあること」

 セシリアの台詞に固まっちゃったよ。確か……入学の時にもらった冊子に、そんなこと描いてあったような……

「その顔は忘れてたね。新入生と上級生、四人一組で執り行われる伝統行事だよ」

「マジ?」

「大マジ。成績順だから、新入生は私と組めるとして、上級生は高位貴族になるかもしれない。今日発表されるはず」

 セシリアと組めるのは心強いよ。上級生は、できれば下位貴族がいいな。公爵令嬢の件があったからか、高位貴族は苦手なんだよね。

「黙って、大人しく後ろを歩くことにするわ」

 どっちにせよ、そうするのが一番だよね。

「私も一緒だから安心して」

「ありかとうございます。ほんと、セシリアって頼もしくて格好良いですね」

 ニコッと笑う。

「私は、ユーリアの方が格好良いと思うけどね」

「私が格好良い? ただの、生意気な子供でしょ」

「ユーリアが格好良いって知ってるのは、今は私だけ。なんか、嬉しいな」

 天使様の笑顔は尊い。セシリアの笑顔を見た数人の生徒が真っ赤になってうずくまってるわ……少しは免疫のある私でも赤くなるのに、免疫がない人ならそうなるよね。遠巻きでセシリアを見ている子もいるし。

「……そのうち、ファンクラブができそう」

 私はセシリアが聞こえないほど小さな声で、ポツリと呟いた。そうなると、私は完全に悪役になるわね。まぁ、それは、なった時に考えればいいことね。離れるつもりはないけど。

 とりあえず今は、オリエンテーションの相手が人に無関心な人がいいな。なんて願ってたけど、まさか、あの御方と組むとは思わなかったわ。

 オリエンテーション、休んでもいいですか?

「それは無理だよ。休んだら、留年だよ」

 声に出てた!? 恥ずかしい。

「どうして!? そこまで、オリエンテーションに力入れてるの」

 真っ赤な顔を隠しながら愚痴る。

「伝統行事だからだよ」

 恐るべし、伝統行事!!




 
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