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第三章 学園生活の始まりです
常識には勝てないよ
しおりを挟むちょっとした行き違いはあったけど、無事入寮できました。
落ち着いて考えてみれば、ここ女子寮なんだから、セシリア様がいる時点で女の子ってわかるよね。よほど、私混乱してたみたい。恥ずかしいな。
セシリア様はすでに荷解きがすんでいたので、私の荷解きを普通に手伝ってくれた。本当に天使様だよ。それにいい匂いもするし。貴族様の中には、こんなできた人がいるんだって、実は内心驚いてた。だって、大半は……
「知ってます? 今年の聖女科の新入生の中に平民がいるんですって」
「平民が!? 驚きですわ。平民ごときが聖女になろうとは、神を愚弄しているとしか思いませんわ」
ここまで過激なのはなかなかないけど、皆似たような意味のことを囁いてる。あまり目立ちたくないから隅の方の席に座ったのに、ここまで聞こえてくるよ。
まぁ、覚悟はある程度していたからね……まぁ、言われるとは思ってたよ。だから、そんなにセシリア様が怒らなくていいから。
その場に立って、抗議しようとしているセシリア様を、私は慌てて止めた。「下手に目立ちたくないから」って言ってね。隅の方に座っててよかったよ。私たちのやり取りが聞かれてなくて、内心ホッと胸を撫で下ろした。
それにしても、完全に針のむしろ状態ってこのことだよね。セシリア様の気持ちは嬉しいけど、落ち着いて食べれやしない。まぁでも、こんな空気の中じゃ、そもそもそんなに食べれないけど。味も半減だわ。美味しいのに、残念。
そう。今私とセシリア様は食堂に来ているの。荷解きが終わったからね。荷物が少ないから、そんなに時間掛からなかったよ。少し休憩できる時間もあったし。
学費の費用の中に寮費も含まれているので、目の前にある豪華な食事は基本無料なんだ。だから、結構な量を皿に盛ってもタダ。おかわりしてもタダ。中には、特別メニューを注文している人がいるけど、それは料金が掛かるらしい。そりゃあ、そうよね。私は頼まないけど。だって、お金もったいないし、デザートと飲み物も付いてるからいらない。
「やっぱり、許せない」
「そんなに怒らないでください、セシリア様。怒ってもしかたありませんよ」
セシリア様の気持ちが嬉しくて顔がニヤけそう。必死に我慢しながら小声で言った。
「ユーリアは悔しくないのか?」
セシリア様の怒りの矛先がなぜか私に向いてきた。
「悔しいですよ。なに当たり前のことを訊いてくるのですか?」
「だったら!?」
「言ってどうするのです。多勢に無勢。私たちに勝算はありませんよ」
「……」
「それに、彼女たちが言っていることは間違いではありませんよ。悲しいことですが、それが常識です」
「でも!?」
「常識に勝てる見込みはありません。だからといって、卑屈になるつもりはありませんよ、セシリア様。私は私ができることを、前を向いてするだけです」
私がそう告げると、セシリア様の目がいつも以上に大きくなった。
「……ユーリアは心が強いね。私も見習わなくてはいけない。ユーリアと友だちになれて、本当によかった」
とってもいい笑顔で、そんなことを言われちゃった。
「ほっ、褒めても、なにもでませんからね!!」
顔に血がのぼる。絶対、真っ赤になってるよね、私。あ~恥ずかしい。セシリア様って天使様だけど、こんな恥ずかしいセリフ普通に言えるなんて、免疫がない私には処理できないよ。
あっ、美味しい。
この会話の後、食事がとても美味しく感じたのは、やっぱりセシリア様のおかげだよね。私の方こそ、友だちになれてよかったよ。
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