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第三章 学園生活の始まりです

天使が降臨しました

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 突然話し掛けられて、反射的に振り返る私。そこには、十歳くらいの美少年が立っていた。

 まるで天使様みたい……

 金髪に天使の輪っか、透きとおった綺麗な青の瞳。見惚みとれるってこういうことを言うんだ……

「どうかした? ユーリア様。一日馬車の移動だから疲れちゃったのかな?」

 答えない私を心配する天使様。

「は、初めまして、ユーリアといいます」

 慌てて、私は頭を軽く下げ返事をする。

 やっぱり、天使様が私のフォローをしてくれるんだ。てっきり、女の子だと思ってたよ。

「初めまして、ユーリア様。私はセシリア・オルコットといいます。これから、六年間よろしくね」

 爽やかな無垢むくな笑顔。ほんとに、天使様だ……

 ……ん? あれ? セシリア? セシリアって、女の子の名前だよね。貴族様って、男の子に女の子の名前を付けることあるんだ……知らなかったよ。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします、セシリア様。私のことはユーリアとお呼びください」

 セシリア様にはファミリーネームがある。ということは、この天使様は貴族だってこと。平民はファミリーネームを持たないからね。そして、天使様が通う科は魔法科だと思う。

「それは嫌かな」

 まさかの拒否。嫌って言われても、こればかりはきけない。

「嫌と言われても、困ります!!」

「だったら、ユーリアが私のことをセシリアって呼んでくれるならいいよ」

 さらにハードルが上がったよ。

「そっ、そんなことできません!! 貴族の方を平民である私が呼び捨てなど、許されません!!」

「私がいいって言ってるのに」

「それでもです!!」

 私のかたくなな姿を見て、セシリア様は肩をすくめる。

「しょうがないな。今はそれでいいよ。でも、いつかは私のことを名前で呼んでもらうから、覚悟してて」

 にっこりと微笑みながら折れてくれると、私はそれ以上何も言えなくなった。っていうか、天使の前で、これ以上の反論なんて恐れ多くてできないよ。

 戸惑う私を無視して、セシリア様は私のトランクを持った。

「さぁ、部屋に案内するよ」

 そう言うと、セシリア様はさっさと歩き出す。

「待ってください!! トランク、私が持ちますから!!」

 私の願いは完全に無視された。どうしても、返してくれない。

『甘えなよ、ユーリア。これから、六年間一緒に過ごすんだから』

「そうだけど……」

 セシリア様の後ろを歩きながら、私は聞こえないように小さな声で答える。  

 ハクアの言いたいことはわかるけど、貴族と平民の身分の差は大きいんだよ。身体に、魂に、刷り込まれているみたいにね。現に、隣で歩けない。顔を上げれない。

 突然、セシリア様の足が止まる。下を向いていたから、反応が遅れて、セシリア様の背中に勢いよくぶつかってしまった。

「すいません!! お許しください、セシリア様」

 またしても、慌てて私は頭を下げ謝る。
 
「どうして謝るの? 急に立ち止まった私が悪いのに」

 その声は、少し怒っているように聞こえた。

 謝ったことに怒ったの……? なんで?

「……私はユーリアと友だちになりたいのに、君は違うんだね」

「そんなことない!! 私はセシリア様と友だちになりたいです!! でも……」

 セシリア様の沈んだ声に、私は反射的に否定した。

 私もできることなら、セシリア様と友だちになりたい。許されるのなら。

「なら、私の隣にいて欲しい。二人だけの時は。名前のことは今はいいから。友だちに後ろを歩かれるのは悲しいよ」

 傷付けちゃった。そんな気持ちはなかったのに、こんな綺麗な天使様を悲しませてしまった。

「……いいのですか? 平民の私が二人っきりの時でも隣を歩いて。陰口を叩かれることになるかもしれませんよ」

「そんなこと、全然構わないよ。それよりも、ユーリアの方が大変だと思う。でも大丈夫、私が護るから」

 セシリア様の言葉に微塵みじんの嘘は感じない。自然と笑みが浮かんだ。

「私なら大丈夫ですよ、セシリア様。平民が聖女科に入学するだけで、かなりのひんしゅくを買ってますからね」

 ジュリアス様とライド様から、学園に入学する前に色々教わっていたからね。当然、学園での私の立ち位置もね。

 名前呼びはまだまだハードルが高いけど、隣を歩くのなら大丈夫。私はセシリア様の隣に立った。セシリア様が嬉しそうに微笑んだ。

 モフモフで超可愛いハクアと天使様。

 私の学園生活、楽しくなりそう。と、思ってたんだけど……

 案内された部屋。

 当然のように一緒に入って、ドアを閉め、鍵を掛けるセシリア様。そして、にっこりと微笑みながら、セシリア様はとんでもないことをおっしゃったの。

「着いたよ。ここが、私とユーリアの部屋だよ」



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