23 / 74
第二章 出稼ぎライフの始まりです
王室の一部屋で(監視者視点)
しおりを挟むハクアが長い夜になりそうだと思った少し前、王宮の一室で派手に物の壊れる音が響いていた。年若い数人の侍女は対処できなくておろおろとしている。
「どういうことですの!? なぜ、ライド様やジュリアス様とあろう方々が、あんな平民の世話をしているのですか!?」
部屋の主である王女殿下がヒステリックな声で怒鳴り、周囲のものに当たり散らかしていたのだ。この数日、いつもそう。
最初は、たまたま通り掛かっただけだった。
学園からの帰りの馬車の中から、そのご尊顔を見ることができて、とても幸せな気持ちになった。
憧れの人だったから。
でも、その気持ちは急に萎む。
ライド様と手を繋ぎ歩いている平民がいたからだ。仲良くお菓子を食べている。幸せそうにね。
「お気をお静めください、王女殿下。たまたまでございますよ。おそらく、あの娘は、聖女のスキルを持っているのでしょう。鑑定を担当した神官様が、入学するまでお世話するのは習わしとなっております。ライド様もジュリアス様も、それに従ったまででしょう」
必死になだめようとしているのは、王女殿下付きの侍女だろう。一人年齢が違うから、乳母かもしれない。
「だとしても、許せませんわ!! ライド様もジュリアス様も、ゆくゆくは大神官様になるお方。平民の相手をする方ではありませんわ!! そもそも、なぜ平民が聖女のスキルを持っていますの!?」
どうやら、なだめるのに失敗したみたい。ますますヒートアップしている。
ライド様とジュリアス様の人気は、聖女のスキルを持つ、持たないに関わらずあった。王城で働く近衛騎士を時に凌ぐこともあったほどだ。その時点で、容姿も飛び抜けて良いことがわかるだろう。当然、王女殿下も密かにファンの一人だった。
その憧れの二人が、平民を付きっきりでお世話している。心底、王女殿下は羨ましかった。なぜ、自分ではないのかと思った。理不尽だと思い、キーーと、ヒステリックな声を上げ物に当たり散らすくらいには、腹が立っていたのだ。
「平民の中には、聖女のスキルを持つものが、少数ですがいらっしゃいます。しかし、大半は聖女になることはできません。平民と貴族の身体に流れる血は違いますから。ご心配なさらずとも、入学するまでございます。それに、無事卒業できるとはかぎりません」
そこまで侍女が言って、ようやく王女殿下は落ち着きを取り戻し始めた。
「そうよね……平民が聖女になろうなんて、烏滸がましいのよ!! 私は将来、姫聖女になる者よ。入学したら、先輩としてキッチリと教えて差し上げましょう」
そう言い放つと、王女殿下は声高らかに笑った。
その会話と映像が、バッチリと撮られ残されていることとに、この場にいる一人を除いて気付かない。
映像を撮っている者は胸の内で呟く。
平民、貴族、血が違うと思っている時点で、聖女になるのは絶対無理でしょ。姫聖女? あ~ないないってね。
21
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる