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第二章 出稼ぎライフの始まりです

王室の一部屋で(監視者視点)

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 ハクアが長い夜になりそうだと思った少し前、王宮の一室で派手に物の壊れる音が響いていた。年若い数人の侍女は対処できなくておろおろとしている。

「どういうことですの!? なぜ、ライド様やジュリアス様とあろう方々が、あんな平民の世話をしているのですか!?」

 部屋の主である王女殿下がヒステリックな声で怒鳴り、周囲のものに当たり散らかしていたのだ。この数日、いつもそう。

 最初は、たまたま通り掛かっただけだった。

 学園からの帰りの馬車の中から、そのご尊顔を見ることができて、とても幸せな気持ちになった。

 憧れの人だったから。

 でも、その気持ちは急にしぼむ。

 ライド様と手をつなぎ歩いている平民がいたからだ。仲良くお菓子を食べている。幸せそうにね。

「お気をお静めください、王女殿下。たまたまでございますよ。おそらく、あの娘は、聖女のスキルを持っているのでしょう。鑑定を担当した神官様が、入学するまでお世話するのはならわしとなっております。ライド様もジュリアス様も、それに従ったまででしょう」

 必死になだめようとしているのは、王女殿下付きの侍女だろう。一人年齢が違うから、乳母かもしれない。

「だとしても、許せませんわ!! ライド様もジュリアス様も、ゆくゆくは大神官様になるお方。平民の相手をする方ではありませんわ!! そもそも、なぜ平民が聖女のスキルを持っていますの!?」

 どうやら、なだめるのに失敗したみたい。ますますヒートアップしている。

 ライド様とジュリアス様の人気は、聖女のスキルを持つ、持たないに関わらずあった。王城で働く近衛騎士を時にしのぐこともあったほどだ。その時点で、容姿も飛び抜けて良いことがわかるだろう。当然、王女殿下も密かにファンの一人だった。

 その憧れの二人が、平民を付きっきりでお世話している。心底、王女殿下は羨ましかった。なぜ、自分ではないのかと思った。理不尽だと思い、キーーと、ヒステリックな声を上げ物に当たり散らすくらいには、腹が立っていたのだ。

「平民の中には、聖女のスキルを持つものが、少数ですがいらっしゃいます。しかし、大半は聖女になることはできません。平民と貴族の身体に流れる血は違いますから。ご心配なさらずとも、入学するまでございます。それに、無事卒業できるとはかぎりません」

 そこまで侍女が言って、ようやく王女殿下は落ち着きを取り戻し始めた。

「そうよね……平民が聖女になろうなんて、烏滸おこがましいのよ!! 私は将来、姫聖女になる者よ。入学したら、先輩としてキッチリと教えて差し上げましょう」

 そう言い放つと、王女殿下は声高らかに笑った。

 その会話と映像が、バッチリと撮られ残されていることとに、この場にいる一人を除いて気付かない。

 映像を撮っている者は胸の内で呟く。

 平民、貴族、血が違うと思っている時点で、聖女になるのは絶対無理でしょ。姫聖女? あ~ないないってね。


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