上 下
16 / 74
第二章 出稼ぎライフの始まりです

聖獣様の名前が決まりました

しおりを挟む


 聖獣様!! 突然、何を言い出すの!? 
 
 文句を言いそうになったけど言えない。当然だよ、これは私のためなんだから。

 わかってるから、そっ、そんな期待のこもった目で見ないで~~。ジュリアス様も凝視しないで。

 考えてなかったわけじゃないよ。お願いされた時から考えてた。でもね、何度も言うけど、すっごい下手なんだよ。下手すぎて、何度も困惑された。実の両親にね。それほどなんだよ……

 それでも、いくつか書き出しては、止めて、また書き出す。何度も何度も繰り返した。最終的に、何個書き出したか数えられないくらい考えた。でも、なかなかしっくりするものが浮かばない。それじゃ、ダメだと思う。

 だって、聖獣様の名前だよ、失敗できるわけないじゃない。呼ばれ続けるのは聖獣様なんだよ。そう考えると、責任重大だよね。

『……そんなに深く考えなくてもいいよ。こう、直感的な感じで』

 難しいことを言われた。それでも、聖獣様は優しい。もし変な名前になっても、怒ったりはしないと思う。だけと、私が嫌。

 悩みに悩んで、一番マシな名前を口にした。

『…………じゃあ、ハクアってどう?』

 自信がないから、とても小さな声で尋ねてしまう。
 
『ハクア? それって、どう言う意味なの?』 
 
 あれ? 嫌そうじゃない。まずは、第一段階突破突破でいいのかな。

「ハクって白って意味なの。海を越えた先にある遠い国の言葉なんだって。昔、お父さんが教えてくれたの。でもそれじゃ、味気ないから、私の名前の一文字を付けてみたの……ダメかな?」

 おずおずと聖獣様をうかがう。

 聖獣様の名前に自分の名前の一文字を入れるなんて、不敬すぎて怒られてもしかたないよね。嫌がられるかな? でも、どうしても入れたかったの。っていうか、ボンって浮かんだんだよね。自分の中じゃ、最高傑作だよ。

『ハクア…………ハクアか……うん、気に入ったよ。これから、僕はハクア。ユーリア、これからもよろしくね』

 お世辞じゃないみたい。聖獣様の尻尾が左右に勢いよく揺れてるよ。どうやら、気に入ってくれたみたい。ほんとよかった~。ふぅ……緊張で、手汗すごっ。

 ジュリアス様も喜ぶ聖獣様を見て、「よかったですね、良いお名前です」って言ってくれてるし、聖獣様と一緒に喜んでいる。そもそも、おかしな名前でも、聖獣様が喜んでくれてるのを見て、「そうですか……おかしな名前ですね」なんで言えないよね。

 ひねくれている私は、ついそんなことを考えてしまう。こういうどころが、子供っぽくないんだよね。わかってるって。

 でもこれが、私なんだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

御伽の国の聖女様! 婚約破棄するというので、聖女の力で結界を吸収してやりました。精々頑張ってください、私はもふもふと暮らします

地鶏
ファンタジー
「婚約破棄を命じる!」 ある日、国王から私と、王子の婚約破棄を宣言されました。 どうやら、もともと浮気性の王子が別の女に熱を上げているようです。そして、息子可愛さに私を追い出そう押しているわけですね。 追放? 構いませんが、ひとつ忘れてませんか? 私、国を守る聖女なんですよ? それでも追放すると言うので、結界を吸収してやりました。精々、頑張って国を守ってくださいね。私はもふもふ達とのどかに暮らします! 最強で無敵、だけど戦いは好きじゃない聖女が、もふもふと優しい仲間に囲まれて平和な日々を謳歌するほのぼのスローライフ作品です。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ この作品はカクヨム、小説家になろう、ノベリズムにも投稿しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

処理中です...