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第二章 出稼ぎライフの始まりです
メルセの街(1)
しおりを挟む今日も快晴。
予定通りに、メルセの街に到着した。
一応滞在期間は二日の予定。いつもは翌日に出発していたから、一日だけだけど、長く滞在できるのは嬉しかった。観光できるからね。馬を交代するんだって。あと、馬車の点検も。
馬車は停留場には停らずに、教会の前に停まった。全員馬車から降りる。
休憩を取るように、ジュリアス様とライド様に言われたけど、早く手紙を出したくて、慣れないお願いをしてみた。すると、渋い顔をしながらも許可してくれた。
ジュリアス様は教会に用事があるので、お留守番。なので、ライド様と聖獣様と一緒に郵便屋さんに来ていた。
無事、両親とサリアに手紙が出せて一安心。
観光はせずに教会に戻る約束だったから、郵便屋さんを出て戻ろうとしたの。そしたら、目の前の道で人だかりができていた。それを避けようとしたら荷馬車が横切って、そのままあっという間にハグレちゃった。周りをキョロキョロと見回しても、ライド様と聖獣様の姿は確認できない。
どうしよう……
「…………聖獣様もライド様も心配してるよね」
今までの人生の中で最大のピンチです。初めて来た街で迷子になりました。
あの時、照れなくて素直にライド様と手を繋いでたら迷子にならなかったよね……
後悔しててもしかたない。教会に戻れれば大丈夫。
道を行き交うのは大人ばかり。声を掛け、教会までの道を訊きたいんだけど、急いでいるからかな、私の方をチラッと横目で見てくるだけで誰も立ち止まってはくれない。
ちょっとは子供に優しくしてよ……
文句を言ってもしょうがないけど、言いたくなるよ。心細くて泣きそうになるよ。でも、ここで泣いてても何も始まらない。
グッと涙をこらえて、私は大通りに向かうことにした。
大通りに行けば、優しい人が道を教えてくれるかもしれない。探しに来てくれた、ライド様や聖獣様に見付けてもらえるかもしれない。
トボトボと歩く。
あれ? ここどこ……?
人が多くいる方に歩いてるんだけど、大通りに着かないよ。方向間違ってないよね。不安になって足が止まる。そして、俯いた。足先に影があるのに気付いて顔を上げる。
知らないおじさんが立っていたーー。
そして、私を上から下まで見るとニヤリと笑ったの。背中がゾクッとするような、冷たく、とても嫌な目だった。
その笑みを見た瞬間、私は数歩後ろに下がり背を向けて逃げ出していた。おじさんは慌てて捕まえようと手を伸ばす。その手は空を切った。
「逃がすか!!」
おじさんの苛立った声がする。私は必死で手足を動かした。
どうしよう!? もしかして、人攫い!!
前にお父さんが言ってた。街には悪い人が紛れてることがあるって。
捕まったら終わりーー。
世間知らずの私でもわかった。
考えろ!! 私。
逃げるとしても、子供だから、体力的にそんなに遠くには逃げられない。動けなくなる前に捕まってしまうかも。なら、隠れる方がいいよね。隠れて、ライド様や聖獣様が見付けてくれるのを待った方がいい。
私は脇道に逃げ込む。
裏口かな、ドアの横に樽が置かれていた。蓋を開けると何も入っていない。私は迷うことなく、その中に逃げ込んだ。
ーー聖獣様!! 助けて!!
目を瞑り、必死で心の中で叫ぶ。
迷子が最大のピンチだと思ってたけど、今が最大のピンチだよ。お願い、助けて!!
何度、叫んだだろう。
『……ユ…リア、僕の声……聞こえる…………』
微かに、私の名を呼ぶ声が聞こえた。懐かしい、私がよく知っている声。
ーー聞こえてるよ!! 助けて!! 今、空樽の中に隠れてるの!!
『誰か……に追われてる……の?』
少しハッキリと聞こえてきた。
ーー変なおじさんに追われてるの!!
『そのまま、話し掛けていて、すぐに皆で迎えに行くから』
鮮明に聞こえる聖獣様の声。とても小さかったけど、ちゃんと聞こえたよ。
ーーうん。
今も震えるほど怖い。
でも、聖獣様が私を見付けてくれた。それだけで、不思議と身体の震えは治まったの。もう大丈夫。
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