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第一章 田舎娘が聖女になりました

聖獣様の結界はすごかったです

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 この三日間、ものすごく忙しかったよ。それで、思いもしないことが起きた三日間だった。

 荷造りもそうだけど、細々な用事がこんなにあるとは思わなかったよ。家を出るって、こんなに大変なんだね。勉強になったわ。

 お父さんもお仕事をお休みにして、忙しそうに動き回っている。お母さんが動けないからね。それでもお母さんは、ジャムや果物の砂糖漬けとか、たくさん用意してくれたよ。

 昼はなかなか話せなかったけど、夜はいっぱいベッドの中で聖獣様と話したの。たあいのないことばかりね。王都のことや学園のこと。そして、聖獣様の故郷の話。私のことも話したよ。とっても楽しかった。

 そうそう、その他にもおもしろいことがあったんだよ。

 普段、家に来たことがない村長さんが突然、息子とやって来て強引に家に入ろうとしたんだ。そしたらね、入れなかったんだよ。見えない壁に阻まれてね。それも村長さんだけ。

 聖獣様の結界すごいよね。

 なんでも、私と息子を婚約させたかったみたい。昨日、遠巻きに見てヒソヒソと悪口言ってたのにね。

 当然、お父さんは断ったよ。断われることに少し驚いた。でも、村長さんは諦めていないようだった。お父さんを外に連れ出し、認めるように怒鳴っている。必死で断るお父さんが可哀想になってきた。腹も立ってきた。

 でもここで、救世主の登場。

 神官様がね、キッパリと断ってくれたの。

「無理強いすると、聖獣様の加護がなくなるが、それでもいいのか」ってね。

 そうおどされたら、村長のヤツ、青い顔をして逃げて行っちゃった。付き合わされた息子も可哀想よね。真っ赤な顔で泣きそうになってたから。

 どうやら、加護がなくなる話、脅しじゃなくて事実なんだって。よほどのことがない限り、加護はなくなったりはしないんだけどね。もしなくなったら、それは本人が悪いと思う。確か……それって、自業自得って言うんだよね。

 あと、サリアもお別れに来てくれたよ。前に借りておもしろかった本をくれた。サリアのお気に入りだったのに。「いいの?」って訊いたら、王都の本屋さんで本買って来てって言われたわ。サリアらしいよね。今度里帰りする時は、たくさんの本をお土産にしようと思う。聖女って給料が出るからね。

 それとなぜか、リナリーが家に来たの。来るとは思ってなかったわ。そこまでして、嫌味を言いたいんだって思ってうんざりしたけどね。

「貧乏なあんたが聖女? 笑っちゃう」とか平気で言いそうだったのに、ボロボロと涙を流して大泣きしたのにはビックリ。泣きながら、持っていた紙袋を私に押し付けて、走って逃げちゃった。だけど、リナリーらしい捨てゼリフは残していったわね。

「貧乏なあんたに、これあげるわ!! 少しは様になるでしょ」ってね。

 紙袋の中には、可愛らしいピンク色のガラスでできたブレスレットが入っていた。

「だから、前から言ってるでしょ。リナリーはユーリアのことがお気に入りだって。素直じゃないから、こじらせてるってね。少しは信じられるようになった?」

 私とリナリーのやり取りを見ていたサリアが、二階の窓を開け顔を出し得意げに言った。サリアの家隣だから、騒いでたら丸聞こえだよね。

「……うん、少しは」

 そう答えた声はとても小さかった。ビックリしすぎてね。

 そんなこんなで、出発はいよいよ明日。

 前日の夕ご飯は、今まで食べたことがないぐらい豪華なものだったよ。いつもは塩味のスープに硬いパン。よくて、ハムを焼いたのが付いてたけど、今日はさらにオムレツにデザートが付いてたんだよ。無理をさせちゃったなって思ったけど、お父さんとお母さんに愛されてるって実感したんだ。

 ありがとう、とっても大好きだよ。

 そう思ったら、胸の中が熱くなって、涙があふれて止まらなくなったよ。そんな私を、お父さんもお母さんも優しく抱き締めてくれたんだ。



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