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第一章 田舎娘が聖女になりました
聖獣様はとても優しくて強かったです
しおりを挟む聖獣様は私の膝から下りると、さっきまでお父さんが座っていた場所にちょこんと座る。ほんと、可愛すぎるよ。
「取り除くって、どうやって?」
私が尋ねると、いたずらを考えるような楽しそうな声で聖獣様は答えた。
『ユーリアのお家の周りに結界を張ってあげる。悪いやつが入って来れないように』
とんでもない提案に驚いたよ。とっさに手を振り断る。
「えっ!? 結界って、この国を覆ってるものだよね。ダメだよ、絶対にダメ。私んちのようなボロい家に使ったらダメだよ」
これでもかってほどに、力を込めて断った。
『え~なんで? 良い案だと思ったんだけどなぁ』
両耳が垂れ、しょんぼりする聖獣様。揺れていた尻尾もパタンと垂れている。その圧倒的な可愛さに、完全によろめいた。今すぐ抱き締めたくなるのを、私はグッと我慢する。
「聖獣様の気持ちは、とっても嬉しい。ありがたいわ。でもね、知ってるんだよ。この国に強い魔物や悪い人が入って来れないように、結界が張ってあることぐらい。そんなすごい力、私の家のためなんかに使ったらもったいないよ。許されないよ。だからダメ」
これでわかってくれるかな。
『僕の聖女の家を護るためだよ。ユーリア知ってる? 聖女って、毎月国からお給料が出るんだよ。親思いのユーリアだから、お金を家に送るんだよね。だとしたら、なおさら危なくない? 今まで以上に危険だと思うな』
聖獣様は譲らない。
国から毎月お金が出るのは正直嬉しい。家族も増えるし、家が少しでも楽になるのなら、聖女になるのもいいかなって、今は真剣に考えてる。動機はアレだけど。
それでも、大変だけど頑張ろうって思うんだ。
聖獣様が言ってることも理解できるよ。心配してくれる気持ちも伝わってる。間違ったことも、おかしなことも言ってない。頭では正しいってわかってるの。それでも、うんって素直に頷けない。
だって、聖獣様の力は国を護るための力だもの。貧乏な平民を護るために使ったらダメな力なの。だから、心が痛いけど、私は聖獣様の申し出を断ったんだ。
「それでもダメだよ。神官様に怒られちゃうよ」
神官様もいい顔しないと思う。
『わかった。なら、ジュリアスがいいって言ったらいいんだね』
聖獣様はそう言うと、ドアの所まで歩くとカリカリと扉を引っ掻いた。すると、すぐにドアが開いた。私が違うって言う暇がなかったよ。
「話し合いは終わりましたか?」
『うん、終わったよ。それで、ジュリアスに訊きたいんだけど、ユーリアの家に結界を張ってもいいかな?』
「ユーリア様の家にですか……」
神官様とお父さんの視線が痛い。グサグサと突き刺さる。
『ユーリアは僕の聖女だから、特に危険だと思うんだ。聖女ってだけで、色々厄介事が舞い込むかもしれない。田舎だからって安心できないよね。ジュリアス、ユーリアは家族思いの優しい子だよ。一人親元を離れて、王都で聖女の勉強をしなくちゃいけないのに、心配事があると集中できないんじゃないかな。ジュリアスはいいの? 僕が選んだ聖女が病気になったり、落ちこぼれになっても』
すっごく筋が通ったことを論理的に言ってるけど、軽く脅しが入ってませんか? これ、否って言わせないパターンだよね。
「…………そうですね。ユーリア様が安心なさるのが一番ですね」
その間が答えだね。本当にすみません、神官様。心の中で何度も頭を下げて謝ったよ。お父さんは、自分の知らないところで、とんでもないことが決まって固まってるし、ほんとごめんね。
『よかった。ユーリアが全然賛成してくれないから困ってたんだ。ジュリアスが賛成してくれて助かったよ』
そのセリフで完璧に理解したんだと思う。私と聖獣様のやり取りを。神官様が私に視線を移したからね。私は怖くて、慌ててそっぽをむいたけど。
でもね、聖獣様はめちゃくちゃご機嫌だったよ。聖獣様って、少し強引だけど、とっても強くて優しんだね。そんな聖獣様に、私はメロメロだよ。
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