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第一章 田舎娘が聖女になりました
学園に通うことになりそうです
しおりを挟む小さな咳払いをしたあと、神官様は私にもわかりやすいように噛み砕いて教えてくれた。
自然と、私の背中もピシッと伸びたよ。隣を見たら、お父さんも伸びてたよ。祭事の時にしか見ないような偉い人が、向かいに座ってるんだから緊張するよね。
「まず、これだけは先に申しておきます。ただたんに、聖女のスキルを持っているからといって、聖女になれるものではありません」
神官様、そんなに真剣な顔して言ってるけど、それって、すっごく当たり前だよね。
「修行が必要ってことですか? それは当然だと思います。職人の世界もそうだし、スキルを持っているからって、始めからできるわけないでしょ」
そう答えると、なぜか、聖獣様と神官様に驚かれた。驚かれる理由がさっぱりわかんないんだけど。
すると、聖獣様がうんざりしながら教えてくれた。
『聖女のスキルを持っているだけで、自分が優れてるって勘違いしている子がやたらと多いんだよね~』
「あっ、それわかる。自分が特別だって勘違いしているやつね。残念だよね」
『ほんと、残念だよ。おかげで、聖女の数がいっこうに増えないんだから』
はぁ~と大きな溜め息を吐く聖獣様。
「そうなんだぁ、聖獣様も大変だね。ってことは、聖女のスキルを持っている人は結構いるってこと?」
「まぁ、かなり少ないですが、一定数はいらっしゃいます」
代わりに答えてくれたのは神官様だった。ふ~ん、そうなんだ。
「それで、実際、聖女様になるのは何人くらいですか?」
ここ重要だよね。
「そうですね。ここ数年はいらっしゃいませんね。悲しいことですが」
いないって、マジですか。聖女になるって、そんなに難しいの? 厳しい道なの?
「一人も?」
困惑しながらも尋ねた。ちょっと大袈裟に言ってるだけだよね。
「一人もです」
どうやら、事実のようです。色々大変みたい。そこまで話して、ふと気付いた。
「あれ? でも、神官様は私に対して、聖女様って言いましたよね。おかしくはありませんか?」
そう尋ねると、神官様はとても真剣な表情になり答えた。
「ユーリア様は、すでに聖女であらせられます。聖獣様に選ばれた時点で、全ての過程をスキップしたとお考えください。聖獣様に選ばれるということは、それほどの栄誉と力を手に入れたということです。とはいえ、ユーリア様は聖女の役割も歴史も、聖力の使い方も、何もかも知りませんので、一から勉強をしていただくことになります」
うん、それはわかるよ。勉強は大事だし嫌いじゃない。新しいことを知るのは楽しいもの。でも、問題は受ける場所だよ。
「勉強って、どこで受けるのですか?」
「ユーリア様には、王都にある学園に通ってもらいます。専門の科がありますのでそこで。学費も生活費も無料となってますのでご安心ください」
学費も生活費も無料って、貧乏な私んちにとってとってもありがたいよ。でも……王都って、家を出るってことだよね。無理だよ。お父さんとお母さんを置いていけないよ。弟か妹が生まれるのに。
「……ここでは無理ですか?」
ダメ元で訊いてみた。
「寂しいお気持ちはわかりますが、それはできません。聖女のスキルを持つ者は全員、学園に入学するのが法律で定められていますから」
「どうしても?」
「どうしてもです。特例を認めることはできません」
神官様の言ってることはわかるよ。勉強も大事だけど、保護も兼ねてるんだってことはね。だって学園って、貴族様も通う学校だもの。田舎者の私でもそれくらい知ってるよ。
『ユーリアは、どうして学園に行きたくないの?』
渋る私を心配して、聖獣様が訊いてくる。
あまり人には話したくないんだけど、ここは正直に言わなくちゃいけないよね。でも、お父さんには知られたくない。絶対、傷付くもの。ショックを受けたお父さんは見たくないよ。もんもんと考えている私に、聖獣様が嬉しい提案をしてくれた。
『言いにくかったら、僕にだけこっそり教えて』
聖獣様にだったら大丈夫。
「うん。わかった」
にっこりと笑う私に上機嫌な聖獣様。神官様に促され、お父さんは部屋を出て行った。
部屋に残された私は、聖獣様にポツリポツリと話し出す。
私の両親がお人好しだってこと。頼まれたら、すぐにお金を貸しちゃうことをね。
言い終わるまで、黙って聖獣様は聞いてくれた。
『ユーリアって頑張り屋さんだったんだね。偉い偉い。そんな頑張り屋さんに、名案があるよ』
「名案?」
『そう。ユーリアの不安を僕が取り除いてあげる』
狼って満面な笑みで笑うんだ。その笑顔を見たら、不安な気持ちなんてどこかに飛んで行っちゃったよ。
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