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第一章 田舎娘が聖女になりました
神官様
しおりを挟む「失礼します」と声を掛け入室した神官様は一人。聖獣様を肩に乗せていた人だ。鑑定の指揮をとっていたのもこの人。結構、偉い人かもしれない。
どうやら、私たちの応対はこの神官様がするみたいだ。神官様は、私と聖獣様を見て満足気な笑みを浮かべている。仲良くなったのが伝わったからかな。
「お待たせしました。申し訳ありません。紅茶のおかわりをお持ちしましょうか?」
優しげな表情と声。でも、緊張感が増す。
「大丈夫です」
お父さんが代わりに答えてくれた。
私たちの向かいに腰を下ろした神官様は、あらためて、私と聖獣様を見詰めた。
変らない優しげな表情、なのに、ピリッとしたものを肌で感じた。よくわからないけど、見定めてるって感じがする。露骨じゃないけど、嫌な視線。自然と身構えてしまう。それに気付いたお父さんが、私を抱き寄せてくれた。触れ合った腕が温かい。それだけで、ホッとして息が吐ける。
『おい、ジュリアス、僕の大事なユーリアを怖がらせるな』
さっきまで、私の膝の上に座っていた聖獣様は、立ち上がると牙をむき神官様を威嚇した。
「申し訳ありません。怖がらせるつもりはありませんでした」
飄々と答える神官様。
『僕が選んだユーリアに不満があるの?』
聖獣様の口調は乱暴じゃないけど、かなりご立腹のようだ。その姿も可愛いけど。
「ダメだよ、聖獣様。牙をむいたら。とっても可愛いのに、残念だよ。神官様が私に不信感を持つのは当たり前だよ。こんな田舎娘が聖女なんておかしいでしょ。貴族様や裕福な商会の子ならわかるけど」
不敬だって怒られるかもしれないけど、威嚇する聖獣様を抱っこした。怒られないかわりに、すっごく驚かれたよ。目をまん丸くする聖獣様って、超貴重じゃない。
「これはこれは、とても度胸のあるお子様ですね。頭の回転も速い。この歳で、ものの分別もついています。聖獣様がお選びになったのも頷けますね」
『そうだろ、そうだろ』
得意げな聖獣様。
和やかな空間。もう嫌な視線は感じない。少しは神官様に認めてもらえたのかな。
「さっきから気になってたんだけど、聖獣様が私を選んだから、聖女のスキルが与えられたんですか?」
何度も、聖獣様が『僕が選んだ』って言ってたから。
神官様は首を横に振る。
「それは違います。ユーリア様は元々聖女のスキルをお持ちでした。複数人存在する聖女のスキルをお持ちの方々の中で、聖獣様はユーリア様をお選びになったのです」
そう教えられて、私は聖獣様に視線を落とす。大きなクリクリとした目で、聖獣様は私をじっと見上げている。その目が、私には不安そうに揺れているように映った。大丈夫という気持ちをのせて、私は聖獣様の頭を撫でると、神官様に視線を戻しお願いした。
「そうなんですね。あの……神官様、私に様を付けるの止めてもらえませんか。それに、敬語も」
居たたまれなくなるよ。背中がムズムズしちゃう。だって本来は、私が様を付けて敬語で話すべき地位の人なんだからね。
「それはできませんね。聖獣様がお選びになった聖女様に、敬意を表すのは当然のこと。慣れてください」
「それは無理です」
私は根っからの平民です。
「慣れてください、ユーリア様」
笑顔の圧に反論は許されませんでした。私はそれた話を元に戻すことにした。
「聖女様って、何人いるんですか?」
「はい。現在確認できている人数は、ユーリア様を入れて十人ですね」
「十人……それは多いのですか? それとも、少ないのですか?」
私の質問に少し考えてから、神官様は答えた。
「そうですね……これは、私の考えになりますが、少ないと思います」
そう言われても、全然ピンとこないよ。存在は知っていても、私にはおとぎ話の世界だったんだからしょうがないよね。返答に困っている私に、神官様は言った。
「それでは、聖女について、軽くですが説明いたしましょう」
それは超助かる。
「よろしくお願いします」
私は軽く頭を下げた。いくら、聖女で聖獣様に選ばれたとしても、教えを乞うんだから当然だよね。
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