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第一章 田舎娘が聖女になりました
とっても可愛い聖獣様
しおりを挟むうん、帰れなかったよ。
有無を言わさずに、お父さんと一緒に別室に連行されちゃった。神官様たちは席をはずしている。残された私とお父さんは、ソファーに並んで座って待っていた。背筋ピンと伸ばしてね。
テーブルの上には、楽しみにしていた王都のお菓子に温かい紅茶。とっても美味しいよ。美味しいけどね、このままだと美味しくなくなっちゃう。お父さんなんて、緊張で全身カチコチに固まってるし。
真っ白なフワフワは、なぜか私の膝の上で大人しく座っている。犬なのかな? 首だけ私の方に向けて、再度訊いてきた。
『間違いじゃないよ。君は僕の聖女。ねぇ、名前教えてよ』
その声に、お父さんはビクッと身を竦ませ、ワンちゃんを凝視する。その気持ち、とってもわかる。だって、普通犬って喋らないよね。自然と受け入れてるけど、おかしな状況だよね、これって。
教えていいのかな……神官様たちと一緒にいたし、悪い子には見えない。大丈夫よね。
「ユーリアだよ。隣に座ってるのが、私のお父さん。ワンちゃんの名前はなに?」
そう尋ねると、ワンちゃんが少し不機嫌になった。
『失礼な。僕は犬じゃないよ。狼だから、間違えないでね。名前はね、まだないよ。ユーリアが付けて』
狼なんだ。犬って思われたのが嫌だったのね。そう言われると足が太い。足が太いとね、大きくなるんだよ。
「えっ!? 私が付けていいの?」
『うん。ユーリアじゃなきゃ駄目』
狼さんは譲らない。
名付けは苦手なんだよね。う~ん、困った。家にいる子たちは、皆お父さんとお母さんが名付けてるんだよね。あまりも私が下手だから。
「私、すっごく下手だよ」
『それでも決めて。急がなくていいからさ』
どうやら、私が名付けることに意味があるみたい。名付けは聖女の仕事なのかも。聖女のスキルを今すぐ返上したいけど、できないよね……そのスミレ色のつぶらな瞳で見詰められたら、誰も断れないよ。モフモフにはそれだけの力があるからね。
「……わかった。頑張ってみる」
やるしかないか。こうなったら、とびっきりな良い名前を付けてみせるから。聖女に関しては、おいおい考えればいいよね。まだ詳しく知らないし。
『ありがとう、ユーリア』
狼さんはとっても嬉しそうだった。
私と狼さんの会話が一段落したところで、お父さんが口を開く。
「貴方様は、もしかして聖獣様ですか?」
聖獣様? 聖獣様って、国を瘴気から護ってくださってる、あの聖獣様!? こんなに小さいのに!?
『うん、僕は聖獣だよ。まだ、国を護れるほどの力はないけどね』
「代替わりですか?」
そう尋ねるお父さんの表情が硬い。気になる単語がいくつか出てきたけど、質問せずに黙ってお父さんと聖獣様の話を聞くことにした。
『よく知ってるね。そうだよ。さすが、僕のユーリアの父親だね。学もあるし、僕の姿を認識し会話もできる。心が綺麗な証拠だよ』
お父さんのことを褒めてくれるのは嬉しい。
「お褒めいただき、ありがとうございます。普通の人には、その神々しいお姿は見えないのですか?」
聖獣様はコクリと可愛く頷く。
『まず、認識されないよ。神官の中でも、僕を認識できる人は限られてるしね。同行したあの二人は、僕の姿は見えてるよ。僕が姿を見せようと思わない限り無理だね』
「ユーリアは見えるのですね」
私と聖獣様との会話を聞いたうえで、あえてお父さんは尋ねている。だからかな、その言葉の意味がとても重いことに、私は気付かされた。
『僕の聖女なんだから、当然、見えるにきまってる』
聖獣様は繰り返し肯定した。
「そうですか……ユーリアは聖女なのですね」
沈んだ声で、そうお父さんが呟いた時だ。ドアを三回ノックする音がした。席をはずしていた神官様たちが戻ってきたようだ。
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