俺は妹が見ていた世界を見ることはできない

井藤 美樹

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58 結婚が決まって変わったこと

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「今日の午後に、後輩さんがやって来るんですよね」

 いつも通りに一緒に朝ごはんを食べながら、私は陽平さんに尋ねた。

「ああ。だから、一緒に迎えに行かないか?」

 結婚が決まってから、陽平さんの話し方が少し変わった。それが、嬉しいって思える私も大概なんだろうけど。恥ずかしくて、陽平さんには絶対言えないわね。

 たぶん、今の私たちの様子を未歩ちゃんが見ていたら、軽く溜息を吐いてから、手で顔を仰いでたわね。

「私が行ってもいいの?」

「自慢の婚約者を自慢したいんだ」

 話し方も変わったけど、陽平さんはサラリとそんな台詞を口にするようになった。

 そんな雰囲気も全く無いところで、ブチかまされるのよ、どう反応したらいいかわかんないわよ。恥ずかしいけど、こっちは免疫ないんだからね。真っ赤になる私を、そんな目で見ないでよ!! マジで居た堪れない。ましてや、そんな私の反応を楽しんでるのが、一番腹立つ。

「……陽平さんって、平気でそんなことを言うタイプだったんですね」

 少しむくれながら言うと、陽平さんは苦笑しながら言った。

「一葉さんを見ていると、ついポロリと出てしまうんだから仕方ない。嫌?」

「別に嫌ではないけど……」

 ボソリとそっぽを向きながら答えると、またもや、陽平さんがにっこりと微笑む。

「なら、よかった。照れてる一葉さんも可愛いな。ほんと、可愛い」

 ほんと、どうにかして~畳み掛けないでよ。それでなくても、破壊力あり過ぎるのに。眩し過ぎて、直視できないわ。

「だから、朝から止めてください!!」

「そんなに怒らないで」

 陽平さんは笑みを深くしながら言った。

「べつに、怒ってませんよ!!」

「なら、いいけど。愛してるよ、一葉さん」

 ちゃんと伝わってるから、もう止めて。栄養過多で倒れそう。

「わかりましたから、そろそろ時間ですよ。はい、鞄」

 朝ご飯を食べ終えた陽平さんに、私はやや乱暴に鞄を渡す。そして、玄関に追いやる。

「はいはい。では、行って来ます。昼に迎えに来るから、家で待っててくださいね」

 クスクスと笑いながら、陽平さんは言う。

 これが、大人の余裕ってやつ。いつも、こんな風に遊ばれちゃうんだから。ちょっと、ムカつく。見た目はたいして変わらないのに。

「わかりました」

 なので、少しぶっきらぼうに答えた。



 昼の一時過ぎぐらいに、陽平さんが仕事を抜けて家に戻って来た。

「ただいま。一葉さん、用意できてる?」

 玄関のドアが開いたと同時に、陽平さんが声を掛けてきた。

「おかえり、用意できてます」

「へぇ~ワンピースにしたんだ」

 なんか、含みのある声だった。

「初対面の人に、デニムにテーシャツは駄目でしょ」

 私なりに気を使ったつもり。少しでも清楚に見えるように、丈が長めの淡色のワンピースにした。これなら、好印象に見られるよね。これでも、陽平さんのことをちゃんと考えてるんだよ。

「僕はそれでもいいと思うけど……」

 なのに、少し機嫌が悪くなる陽平さん。陽平さんって、意外と変なところで独占力を発揮するんだよね。

「陽平さんはそれでよくても、私は嫌です。ほら、行きますよ。いいんですか? せっかく来てくれた後輩さんを待たすことになりますよ」

 まだ何か言いたそうな陽平さんの背中を押して、私は外に出た。

 
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