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54 嬉しくて、少し泣きそうになった

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「それで、なんの進展もないの?」

 呆れた口調で溜め息混じりに答える、未歩ちゃん。

 次の日、問答無用で捕まりました。無理矢理、お祖父ちゃんの家に連行されて、尋問されてる最中です。こういう時の未歩ちゃんって、マジで容赦ない。

「進展ってなによ。あるわけないじゃない。だって、はっきりと告白されたわけじゃないし」

「はっきり、好きとか愛してるとか言われないと伝わらないわけ? さすがの鈍い桜ちゃんでも、陽ちゃんの気持ちは伝わってるよね?」

 未歩ちゃんにそう詰め寄られると誤魔化せない。

「……まぁ、そういう意味かなぁとは思ってる。まだ、信じられないけど」

「信じられないって。で、その返事が『帰りませんか? 朝ご飯なににします』って、陽ちゃんヘタレだけど、少し可哀想だわ」

「でも……はっきり伝えられてないのに、自分からは……」

 つい、ポロリと口から出ちゃった。

「ふ~ん。やっぱり、桜ちゃん、陽ちゃんのこと好きだったんだ」

 未歩ちゃんがニヤリと笑った。

「じ、自覚したのは、陽平さんに告白された後だから!!」

「ほんと、桜ちゃんって、そういう方面鈍いよね。あれだけ、新婚感出しててさ」

 未歩ちゃんは呆れながら言った。

「新婚感って!?」

 顔が火が付いたように真っ赤になる。未歩ちゃんからはそう見えてたってこと? 恥ずかしすぎる!! でも待って、なら、未歩ちゃんがお祖父ちゃんの家にいるのは……

「出してた、出してた」

 未歩ちゃんはケラケラと笑う。
 
「……だから、気を利かせて、お祖父ちゃんの家に遊びに行くようになったの?」

 もしそうなら、私と陽平さんとの距離感を考えなきゃいけない。

「もし、そうだって言ったら、桜ちゃん、陽ちゃんから距離を取るよね、絶対、私のために。それ、私が嬉しいと思う?」

 完全に先読まれてる。

 未歩ちゃんの顔から笑顔が消えた。反対に、少し厳しい表情で私に質問を返す。

「……思わない。ごめんなさい」

 そんなことされたら嬉しくない、悲しくなる。悲しくて辛い。

「わかればよろしい。私がお祖父ちゃんの所に遊びに来るようになったのは、まぁ……陽ちゃんを応援したかったのもあるわよ。桜ちゃんも満更じゃなかったし。でもね、農業を手伝いしたい気持ちもあったの。自分が世話した野菜を自分で収穫して、それを美味しそうに食べてくれる。それが、とっても幸せなの。大切な家族なら、なおさらね」

 未歩ちゃんがそんなことを考えてたなんて、全然気付かなかった。ただ、ちょっと興味がわいただけだって、軽い気持ちで考えてた。

「未歩……ごめん」

「なんで、桜ちゃんが謝るのよ」
 
「なんとなく」

「桜ちゃんが言ったんだよ。私が発作を起こした時と、迎えに来てくれた時に、『離れていても家族なんだって』ね。その言葉を聞いて、私は本当の意味で家族になれたんだって、すっごく、すっごく、嬉しかった。離れても、絆は消えないって知ってね。だから、お祖父ちゃんと一緒に農業してみようって思えたの」

 そう教えてくれた未歩ちゃんの笑顔は、とっても、とっても、キラキラと輝いていた。陽平さんとは違う眩しさだったけど、私は嬉しくて、少し泣きそうになった。


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