俺は妹が見ていた世界を見ることはできない

井藤 美樹

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44 新生活始まりました

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 私たち四人が今住んでる所は、ファミリー向けの移住者用の一軒家。

 ちなみに、お祖父ちゃんが住んでたのは単身用の平屋でお隣さんだよ。山中さんは偶然って言ってたけど、本当は違うんだろね。未歩ちゃん、お祖父ちゃんにとても懐いてたもの。

 とりあえず、期間は提示したものより一週間長くて三週間。一か月じゃなくて、残念だけど文句なんて言ったら駄目だよね。

 とはいえ、病人が四人一緒に暮らすんだから、色々と注意事項はあるみたい。正直、あり過ぎてわかんない。分厚い冊子を貰ったよ。でもまぁ、一通りは目を通したわ。できる限り、守ろうと思う。それが、認めてくれた人の気持ちに答えることだし、私たち四人の時間を守ることに繋がるからね。

 今のところは、特に問題はないかな。といっても、今までとたいして変わんないんだけどね。生活範囲が狭くなっただけで。入れ物が小さくなったって言った方が適切かな。

「ほら、さっさと起きる!!」

 私は日向さんの掛け布団を引っ放す。

 意外と、日向さんって寝起き悪いんだよね。同居するようになって知ったよ。そういえば、朝ご飯の時、姿見せないこと多かったよね。

「……寒っ!! 後、五分」

 定番の台詞を吐き、また寝ようとする。

「朝ご飯片付けるわよ、日向」

 家事全般は私の担当。

 未歩ちゃんも日向さんも手伝ってはくれてる。日向さんは意外とできるけど、未歩ちゃんはかなり苦手かな。目玉焼きを真っ黒にできるくらいだからね。それ逆に難しいと思うんだけど。

 それと、呼び方の件は、日向さんは日向で。未歩ちゃんは未歩で。山中さんは陽平さんで落ち着いた。一人だけ名字呼びは嫌なんだって。陽平さんもそうだったのにね。さすがに、本人を前に兄さん呼びは恥ずかしかったし。私的にもその方がよかったので、ここだけ修正した。なぜか、陽平さんは不服そうだけど。陽平兄さんって呼ばれる方がよかったのかな?

「しょうがねーな。うっ、寒っ!!」

「今日はまだ暖かい方よ。ほら、起きる」

 日向さんを起こしてから、下におりると未歩ちゃんが欠伸をしながら、コーヒーを飲んでいた。

「おはよう、未歩」

「おはよう、桜ちゃん」

 この生活が始まってから、繰り返されるルーティン。朝の風景ってやつ。本当に家族のようだね。陽平さんは、国谷先生のところに顔を出している。この場合、仕事に行ってるかな。

 暮らしていて気付いたの。家族って、何気ない普通の幸せの積み重ねの上に成り立っているんだって。そこに、血の繋がりがどうかなんて関係ない。あらたて、私はそう思った。

 未歩ちゃんが望んだのも、そういう何気ない普通の幸せなんだと、私は思う。

「コーヒー淹れてくれたんだ、ありがとう」

「コーヒーだけは自信があるんだ」

 うん。まともに飲めるからね。インスタントだけど。

 朝ご飯をテーブルに並べていると、日向さんが眠そうな顔をしながら下りてきた。

「日向君、おっそ~い」

「うっせーな。間に合ったからいいだろ」

 これまた、朝の挨拶のように繰り返される会話。

「いや、間に合ってないから」

 突っ込む私。

 日向さんと未歩ちゃん、仲がいい二人の会話を聞きながら、私は未歩ちゃんが淹れてくれたコーヒーを飲む。朝ご飯は陽平さんと一緒にとってるからね。一人で食べるのは寂しいと思うから。

 
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