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42 絶対、上手くいくよね
しおりを挟む「……どうしても、無理なのかな?」
隣にいるのは、日向さん。日向さんじゃなければ、こんなこと訊けないよ。
未歩ちゃんは明らかに落ち込んで、半分部屋に引きこもってるし。今もコソッと見に行ったら、ふて寝していた。山中さんは、許可がおりそうな物件を探し回っているし。
私も日向さんも手伝いたいけど、やんわりと山中さんに言ったら断られたよ。邪魔になるって。まぁ……確かにそうだけど。他に言いようないかな。不満が口から出そうになる。それを抑え込む。
「願いを叶えるっていっても、ある程度、限度があるのは確かだからな……俺の場合は、国谷さんが他の病院と連携をとっていたし、医者と看護師も同行していたからな」
日向さんの言いたいことはわかる。限られた日時なら、医者と看護師を常駐できるけど、未歩ちゃんの場合、それが難しい。例え、同じ島にいてもね。これがお金ならいかようにもできるけど、こればかりはどうしようもできない。健康面を問われたら、私たち患者からは何も言えなくなる。
「それはわかるけど……」
「それで、一葉、未歩はどうだ? やっぱり夜中、一葉のところに来るのか?」
心配そうな表情で、日向さんは尋ねる。
そう……真夜中、枕を持って来るのよね。一応病室だから、鍵は開いてるし。
「うん……」
「あの時の悲鳴、凄かったよな」
思い出したのか、日向さんはケタケタと笑う。ほんと、意地悪よね。私自身、あの悲鳴には引いてるんだから。
「しつこい」
ポカリと日向さんの頭を小突く。
想像してみてよ。寝返りをうって、あるはずもない温かいのに触れた時のこと。マジで心臓が止まるかと思ったわ。心臓に疾患があったら、絶対病院にお世話になってるわよ。それくらい驚いたし、声も出た。
「……マジで、どうにかして、願いを叶えさせてやりたいな」
ひとしきり笑った後、急に真面目なトーンで日向さんは言った。
「そうだよね……もしもの時、病院が動ける体制がとれたらいいんだけどね」
「ああ、そうだな」
「なら、反対に、日向さんの時のように、短い期間で病院の手配ができればOKってことだよね」
「そうなるな」
「本の通りにはならないことも、未歩ちゃんは理解してるよね」
「まぁ、そこらへんは、さすがに理解してるだろ。馬鹿じゃないんだから」
相変わらず、口は悪いわね。特に気にはしないけど。
「だよね」
そこまで会話して、少し考え込む。黙り込んだ私を心配して、日向さんが下から覗き込んできた。見た目だけなら可愛いんだけどね。
「どうした? 気分でも悪くなったか?」
「ううん、大丈夫。日向さん、ありがとう」
「いや……」
あっ、照れてる。仕事柄、いっぱいお礼を言われてたはずなのにね。
「……日向さん、ちょっと思い付いたんだけど、別に、ずっと、四人一つ屋根の下に住まなくてもいいんじゃない?」
「はぁ!? どういうことだ?」
訝しげに眉を顰める日向さん。
「家族旅行の時と一緒だよ。皆との旅行で最長が九日だよね。なら、ここでならもう少し伸ばせるんじゃないかな? 二週間とか」
なんとなく、私が伝えたいことは伝わったみたい。
「つまり、ここを離れて、別の家で二週間過ごしたら、一旦、こっちに戻って来るってことか?」
「そう!! それを繰り返すってどう? これなら、許可がおりるんじゃないかな?」
要は、山中さんの負担を減らすことと、私たちの安全性の問題を解消すればいいんだよね。これなら、クリアできると思う。
「それ、いい考えじゃないか!! 陽平に電話してみようぜ」
日向さんは、さっそく山中さんに電話を掛け、さっきの会話の内容を、要領よくまとめて話した。
私は日向さんの横で、そのやり取りを黙って聞いている。そんな私でも、山中さんが興奮してるのが電話越しだけど伝わってきた。
「上手くいきそうだぜ。国谷さんに話してみるって」
途中、日向さんが教えてくれた。
「良かった!! 上手くいったら、未歩ちゃん喜ぶね」
この時、浮かれてたから、その後の山中さんと日向さんの会話は耳に入ってなかった。
だけど、日向さんが上機嫌で電話を切ったから、絶対上手くいくよね。
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