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41 安易に考えていました

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 未歩ちゃんの爆弾発言は、とりあえず、一時保留ということになった。

 私的には大歓迎だったし、異論はなかったんだけどね。〈願い〉は基本、よほどのことがない限り叶えられるって聞いてたから、未歩ちゃんの願いもスムーズに叶えられる方向に進むって安易に考えていた。日向さんの時もそうだったし。

 でもそれは……少し甘かったみたい。

 まぁ……理由は色々あるけど、一番の理由が、患者ばかりで住まわせる危険性だった。四人の中で医療関係者は山中さんだけ。山中さんに負担が集中するのは必然。その山中さんが倒れたら、どうなるかっていうのが、心配要素らしい。

 自由に動けて、食事制限もない。特に病状も出ていない。だから、つい、自分が病人だとわかっていても、すぐにどうかなるとは考えてもいなかった。日向さんや山中さんの姿を見ていてもね。

 なので、こういうことがあると、あらためて、私は病人だと再確認してへこんでしまう。そんな私よりもショックを受けているのは未歩ちゃんだった。

「この島で住むんだよ!! 何かあれば、走れるじゃない!!」

 ショックを受けながらも、未歩ちゃんが国谷先生に直談判してるのを何度か目撃したけど、国谷先生の表情は依然と固かった。

 その度に、私は胸が痛む。

 私が書いた小説は、フィクション。だけど、読む者によってはノンフィクションに近い。主人公を取り巻く三人は、モデルがいるから。

 見せてよかったのかな……見せなかった方がよかったかも。今となっては遅いけど、後悔が心を苛む。

「……一緒に住むって、そう簡単にいかないんですね」

 国谷先生との診察中に、ついポロリと出てしまった。

「難しいね……私も、できれば未歩ちゃんの願いを叶えてあげたいんだけど」

 辛そうで疲れた国谷先生の声。私は自分が吐いてしまった言葉が無責任なものだと思った。

「すみません、考えなしに……」

「いや、それだけ、未歩ちゃんのことを思っている証なのだから、気にしなくていいよ。それに、桜井さんのせいじゃないからね」

 反対に、私が慰められてしまった。シュンとする私に、国谷先生は微笑みながら言葉を続ける。

「かなり制限はあるけど、近いものにはしてあげたいと考えてはいるんだ。日向君からも頼まれたし」

「日向さんに……」

 日向さんって、根はとても優しい人だからね。人の気持ちを理解できる人だ。

「山中君からも色々案は出ているしね」

 私は奥で待機している山中さんの方に視線を向ける。

 皆、願っていることは同じなんだ……なら、

「国谷先生、私からもお願いします。未歩ちゃんの〈願い〉を叶えてあげてください。お願いします」

 私もお願いしないと。ソファーから腰を上げ、私は国谷先生に嘆願した。

 すると、国谷先生は「できる限り頑張るよ」と言ってくれた。慰めにも聞こえるそれが、今言える国谷先生の精一杯の言葉なんだろう。

 でもね、未歩ちゃんにも日向さんにも時間がないんだよ……

 私よりも、国谷先生の方かよく知ってるはずよね。よく知っていて、そこまでしか言えないって、未歩ちゃんもだけど、悔しい思いをしているのは国谷先生も一緒なんだよね……無理を言って、ゴメンなさい。


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