34 / 70
33 集中すると駄目ですね
しおりを挟む本格的に書き始めると、食事を忘れちゃうんだよね~お腹が空かなくなるんだよ。感覚が麻痺するのかな。時には睡眠も忘れるくらいだし。だから、貫徹のあと寝落ちなんてざらよざら。体に悪いとは思うんだけど、こればかりはしょうがない。
五年前もそうだったし。大学に行かないだけまだマシ。
その間、栄養ドリンクとコーヒーが友達になるの。時には、ゼリーでカロリーを摂取かな。固形物は大豆バー一択。
その状態まで進むと、夜の方が静かで集中できるから、自然と昼夜逆転生活に突入――
いけないとは思うんだけど、そうなると、朝と昼の業務に支障をきたすわけで……国谷先生と山中さんからお叱りを幾度も受ける始末。未歩ちゃんや日向さんにも心配され注意されて、ついに実力行使されました。
「桜ちゃん!! ご飯食べに行くよ!!」
キレたのは未歩ちゃんに部屋に突撃されて、そのまま引きずられるように食堂に連行されてしまいました。
「陽ちゃん!! 桜ちゃん、連れて来たよ!!」
食堂の入口で、未歩ちゃんが大声を上げた。途端に、ズキンと片側に響く鋭い痛み。
「………お願い、耳元で大声出さないで……頭に響くから」
弱々しい声で、なんとか未歩ちゃんに言った。お酒は飲んでないけど、モロ二日酔い状態。まだ気持ち悪くはないから大丈夫。でも、段々頭痛が酷くなってきた。痛み止め欲しいな……
「大丈夫、桜ちゃん? 顔、真っ青だよ」
未歩ちゃんは、かなり声を抑えてくれた。
「…………痛み止め欲しい」
ボソッと呟く。
「未歩、桜井さんをソファーの席に寝かせてくれ。桜井さんは目にこのタオルを当てて休むこと。痛み止めはその後です」
半ば強引に、未歩ちゃんにソファーに寝かされる。山中さんが目の上に置いたのは、カモミールの香りがする蒸しタオルだった。
とても目が疲れてたから、気持ち良過ぎて堪らない。癒やさせるわ。天国~頭痛も引いてきた。
「…………気持ちいい……」
感嘆の声が吐息と一緒に漏れる。
「日向に聞きました。頑張るのはいいですが、体を壊したら意味ありませんよ。それに、日向も悲しみます」
私の頭に手を乗せ撫でながら、山中さんは子供に言い聞かせるように諭す。
「そうだよ。日向君、責任感じて困ってたよ」
視覚が奪われてるからかな、未歩ちゃんの声が辛そうだってよくわかる。
心配掛けてごめんね。
「……日向さんのせいじゃないよ。五年前もそうだったから。あの時は、今以上だったわ……大学にも通ってたし、だから……大丈夫…………」
あ~心地良すぎて、寝ちゃいそ……う…………
「……あれ? もしかして、桜ちゃん寝ちゃった?」
「おじや作ったんだけど、後でいいな」
「すまない」
「いや、構わない。目を覚ましたら、声を掛けてくれ」
遠ざかる足音。代わりに近付く、小さな足音。
「そんな顔をしない、日向君。日向君のせいじゃないから」
ものすごく心配されてたみたい。寝落ちしてたから、そんな会話が頭上で交わされているなんて知らなかったよ、ほんとごめんね。
二時間ほど寝て目を覚ますと、途端に鳴り出すお腹。めちゃくちゃ恥ずかしい。皆に聞かれたよ。それで、苦笑されたわ。穴があったら入りたい。
食堂のおじさんが作ってくれたおじや、ありがたくいただきました。とても美味しかった。あと、夜食用におにぎりと豚汁も差し入れしてくれたよ。これも最高だった。夜中に温かい食べ物、涙流しながら食べたよ。
10
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる