俺は妹が見ていた世界を見ることはできない

井藤 美樹

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33 集中すると駄目ですね

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 本格的に書き始めると、食事を忘れちゃうんだよね~お腹が空かなくなるんだよ。感覚が麻痺するのかな。時には睡眠も忘れるくらいだし。だから、貫徹のあと寝落ちなんてざらよざら。体に悪いとは思うんだけど、こればかりはしょうがない。

 五年前もそうだったし。大学に行かないだけまだマシ。

 その間、栄養ドリンクとコーヒーが友達になるの。時には、ゼリーでカロリーを摂取かな。固形物は大豆バー一択。

 その状態まで進むと、夜の方が静かで集中できるから、自然と昼夜逆転生活に突入――
 
 いけないとは思うんだけど、そうなると、朝と昼の業務に支障をきたすわけで……国谷先生と山中さんからお叱りを幾度も受ける始末。未歩ちゃんや日向さんにも心配され注意されて、ついに実力行使されました。

「桜ちゃん!! ご飯食べに行くよ!!」

 キレたのは未歩ちゃんに部屋に突撃されて、そのまま引きずられるように食堂に連行されてしまいました。

「陽ちゃん!! 桜ちゃん、連れて来たよ!!」

 食堂の入口で、未歩ちゃんが大声を上げた。途端に、ズキンと片側に響く鋭い痛み。

「………お願い、耳元で大声出さないで……頭に響くから」

 弱々しい声で、なんとか未歩ちゃんに言った。お酒は飲んでないけど、モロ二日酔い状態。まだ気持ち悪くはないから大丈夫。でも、段々頭痛が酷くなってきた。痛み止め欲しいな……

「大丈夫、桜ちゃん? 顔、真っ青だよ」

 未歩ちゃんは、かなり声を抑えてくれた。

「…………痛み止め欲しい」

 ボソッと呟く。

「未歩、桜井さんをソファーの席に寝かせてくれ。桜井さんは目にこのタオルを当てて休むこと。痛み止めはその後です」

 半ば強引に、未歩ちゃんにソファーに寝かされる。山中さんが目の上に置いたのは、カモミールの香りがする蒸しタオルだった。

 とても目が疲れてたから、気持ち良過ぎて堪らない。癒やさせるわ。天国~頭痛も引いてきた。

「…………気持ちいい……」

 感嘆の声が吐息と一緒に漏れる。

「日向に聞きました。頑張るのはいいですが、体を壊したら意味ありませんよ。それに、日向も悲しみます」

 私の頭に手を乗せ撫でながら、山中さんは子供に言い聞かせるように諭す。

「そうだよ。日向君、責任感じて困ってたよ」
 
 視覚が奪われてるからかな、未歩ちゃんの声が辛そうだってよくわかる。

 心配掛けてごめんね。

「……日向さんのせいじゃないよ。五年前もそうだったから。あの時は、今以上だったわ……大学にも通ってたし、だから……大丈夫…………」

 あ~心地良すぎて、寝ちゃいそ……う…………

「……あれ? もしかして、桜ちゃん寝ちゃった?」

「おじや作ったんだけど、後でいいな」

「すまない」

「いや、構わない。目を覚ましたら、声を掛けてくれ」

 遠ざかる足音。代わりに近付く、小さな足音。

「そんな顔をしない、日向君。日向君のせいじゃないから」

 ものすごく心配されてたみたい。寝落ちしてたから、そんな会話が頭上で交わされているなんて知らなかったよ、ほんとごめんね。

 二時間ほど寝て目を覚ますと、途端に鳴り出すお腹。めちゃくちゃ恥ずかしい。皆に聞かれたよ。それで、苦笑されたわ。穴があったら入りたい。

 食堂のおじさんが作ってくれたおじや、ありがたくいただきました。とても美味しかった。あと、夜食用におにぎりと豚汁も差し入れしてくれたよ。これも最高だった。夜中に温かい食べ物、涙流しながら食べたよ。

 
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