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30 日向さんの頼み事
しおりを挟む検査入院の十日を過ぎても、私とお祖父ちゃんはそのまま島に残っている。
接近禁止命令に激怒したアイツらが、怒りにまかせて、物理的行動に出る可能性があるからね。ちょっとした冷却期間かな。
島の仕事って色々あるみたいで、お祖父ちゃんは毎日忙しく動き回ってるよ。ほんと、いい年なのに私より元気だよね~
なので、同じ島にいるのに会える時間は少ない。でも、会おうと思えば会える距離なので、内心はとても嬉しいかな。でも、それを口にはしない。
誰もいない時に、冗談と本音半分で「このまま移住してみる?」って訊いてみたら、「それはできんだろ」って言われたわ。できるんなら、したいってことなのかな。
私的には、お祖父ちゃんが側に居てくれるのは心強いし嬉しいけど、内心、少し複雑かな。だって、私だけだからね、家族が側にいるの。気にし過ぎだって山中さんに言われたけど、やっぱり気になるよ……
そんなことを考えいたら、深夜に飲む酒の量が増えた。まぁ、前からお酒は好きだったしね……そこそこ強い。
今日も、皆が寝静まった深夜、一人、ビールを飲みながら、ボケッと星空を見ていたら、背後から声を掛けられた。
「明日出発なのに、寝なくていいのかよ?」
振り向かなくても、誰なのか直ぐにわかった。
「そういう、日向さんはどうなのよ? あ~もしかして、遠足の前日は眠れない派なの? 可愛い」
「可愛いって言うな!! そんなこと、あるわけねーだろ。でも、まぁ……今回はそうかな」
「やけに素直ね。人生最後の旅行、第一弾だから?」
「言い難いことをズバリ言う奴だな」
呆れた声で答える日向さんからは、怒りも不快感も感じない。
日向さんは隣に座る。「食うか」と、差し出されたのはスルメを炙ったもの。七味とマヨネーズ付き。完全におつまみだよね。
「ありがとう、日向さん。やっぱり、スルメにはマヨネーズよね」
スルメを食べた後、ビールを飲む。うっまい!!
「まるで、オヤジだな」
苦笑する日向さん。ちなみに、日向さんが飲んでるのはアルコールゼロの子供ビール。見た目だけはかなり問題だよね。
「オヤジで悪い? オヤジ最高よね~」
「おいおい、大丈夫か? 完全に酔っ払ってるだろ」
「お酒飲んでるだもの、当然じゃない。……日向さん」
「何だ?」
「お祖父ちゃんと私の件、本当にありがとう」
私は改めて、日向さんに深々と頭を下げた。
「頭を下げる必要はないぞ。困っている人を助けたくて、弁護士になったからな」
「日向さん、格好いい」
「思ってないこと言うな」
「失礼な、思ってるわよ。日向さんは、ほんと格好いいよ。信念を持って仕事してるって伝わってきたし、部下さんもその気持を受け継いでる。それに……困ってる人に躊躇わずに手を出せるのは凄いと思う」
お酒の力かな、普段は思ってても恥ずかしくて、人を褒めることなんてできないのに、スラスラと言葉が出てくる。
言われた本人は、照れて顔を逸してるけどね。
「……そう言ってもらえると、嬉しい」
私に目を合わずに、ポツリと日向さんは呟く。
「急に素直にならないでよ。こっちが照れるじゃない!!」
「一葉が恥ずかしいこと言うからだろ!!」
「私のせい!?」
「当たり前だろーが……一葉」
日向さんの声のトーンが下がる。
「何?」
「一葉、お前に頼みがある」
急に真剣な表情をした日向さんが、真っ直ぐ私を見詰め言った。
「頼み?」
「ああ。俺が三階に行くまでの間に、本を完成させてくれないか? 大変なのはわかってる。だけど……お前が書いた小説を持って行きたいんだ」
その真摯な姿に、私は一瞬言葉が出なかった。でも、答えは決まってる。
「いいよ、必ず完成させる。書き終えたら、一番に読んで感想を聞かせて」
「わかった。辛口だけど構わないか?」
日向さんはニヤリと笑う。
「……程々にお願いします」
「ここは、望むところです、だろーが」
そう言うと、日向さんは声を上げて笑った。私も遅れて一緒に笑う。
こんな時間がいつまでも続けばいいな。
それが叶わぬ願いだとわかっていても、私は心からそう願った。
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