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25 自分の願い
しおりを挟む日向さんの決めた宣言に戸惑う私。
どういうことなのか、日向さんに直接訊こうとしたら、その前に未歩ちゃんが興奮した声で遮った。
「そっかぁ、日向君、それに決めたんだぁ。申請はしたの?」って。
意味わかんないよ。そもそも、申請ってなに!?
置いてけぼりの私をよそに、会話はどんどん進んでいく。
「ああ。それに決めた。お前たちと行きたい。いいか?」
「勿論!! で、どこのテーマパークに決めたの?」
「いや、まだ。でも、メジャーなのはおさえておきたい」
「だよね。だったら、二箇所は確実よね。日向君は怖いの大丈夫?」
「ああ、いけるぜ。むしろ、得意!!」
「なら、一箇所は9月の半ばがいいんじゃない。テーマパーク全部がお化け屋敷になるって、コマーシャルで見たことあるよ。始まったばかりだから、そんなに混んでないと思うし」
そう言いながら、スマホでポチッと検索しだした未歩ちゃん、出てきたのを日向君に見せる。
「おっ、いいな」
「でしょ」
うん。すっごく楽しそうだね。でもね、いい加減私に説明してくれてもいいよね。
「ちょっと、待って。未歩ちゃん、日向さん、いきなりどうしたの?」
やっと、遮ることができたよ。怒涛の勢いだったからね~楽しそうな会話に水をさすのは気が引けるけど。
「え? 桜ちゃん、もしかして、怖いの苦手?」
問題はそこじゃない。
「苦手ってほどじゃないけど、得意ってほどでもないわよ。ジェットコースターは平気。じゃなくて、決めたって、申請ってなに?」
私がそう尋ねると、二人ともハッとした表情になった後、「あ~」と声を発する。
「あ~そうか、一葉はまだ知らなかったか、しょうがないな……陽平」
日向さんは山中さんの顔を見る。山中さんは軽く溜め息を吐いてから言った。説明は山中さんがしてくれるのね。
「今回の検査入院中に言うつもりだったんだ。順序があるだろ。まったく……桜井さん、三階のこともだけど、患者は一つだけ、自分の願いを叶えることが許されてます」
前半は日向さんに対して、後半は私に対してだ。
「願い?」
「どんなものでもいいんだ。願いっていうか、希望っていうか、夢っていうか……まぁ、そんなもんだ。俺たち患者がして欲しいことを、一つだけ叶えてもらえる。期限は決まってるけどな」
日向さんが山中さんの代わりに答えた。
うん、なんとなくわかった。そういう、ボランティアもあるし。でも、
「期限って?」
「俺の場合、次の熱が出るまでの間だな。体が五歳未満になったら、自動的に三階に移動するからな。そうなったら、ここにも来れない」
平気そうに淡々と答えているけど、日向さんの表情からは、寂しさと悔しさが入り混じっているように見えた。未歩ちゃんも山中さんも同じ。
私は何も言えない。
掛ける言葉が見付からないから。頭に浮かぶ言葉は上辺だけのもの。まだ、私はそちら側にいる。そんな私の言葉に、どんな意味が、力があるの? 相手を傷付けるだけだわ。
冷静に考えれば、仕方ない処置だと思う。患者を護るための処置。
だけど、感情は違う――
腹立たしくて堪らないよ。でも……これが現実なんだよね。
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