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23 無駄なことが嫌なだけよ
しおりを挟む成り行きで、私の過去を未歩ちゃんと山中さんに告白してから三日が経った。そのことに後悔はしていないわ。
後悔はしていないけど、かなり重たい話だったことぐらい私でも理解できた。だから話し終えた時、同情されて、反応に困る表情をされるとばかり思っていたのだけど、それは杞憂に終わったの。
正直、内心では同情されるとばかり思っていたんだけどね。それで、地味にショックを受けるの。もしくは、妙な距離をとられたり、あからさまに気を使われなくなったりね。もしされていたら、悲しくて寂しいけど……仕方ないかなって半ば諦めていた。
それが杞憂に終わったでしょ。
未歩ちゃんも山中さんも、当然国谷先生も拍子抜けするほど、これといって変わった様子はないし、気構えていた自分がマジで恥ずかしかったよ。
なのに、この日は朝から少しおかしかった。空気がピリピリしているっていうか、緊張感に包まれていたの。未歩ちゃんと山中さんも同じだった。
未歩ちゃんに理由を訊こうとしたら、「陽ちゃんに訊いて」って言われちゃった。訊くっていっても、さすがに食事中は無理でしょ。
う~ん、もしかして、私知らないうちになにかしたのかな? 告白以外、これといってした記憶ないけど。だとしたら、もしかしてーー
嬉しい予感が頭をよぎる。
そんなことを考えていたら、意を決したように山中さんが口を開いた。
「桜井さん、日向が今日、戻って来るんですが……どうしますか?」
斜め向かいに座って一緒に朝ご飯を食べていた山中さんが、やや固い声でそう切り出す。
私は食事の手を止め箸を置いた。
「日向さん、熱が下がったんですね。よかったです。山中さん、どうする? ってどういう意味ですか?」
わかっていながら、私は尋ねる。
そう切り替えされて、山中さんは困っている。 少し意地悪な言い方をしてしまったわ。山中さんは私を心配して、そう訊いてくれたのは理解しているの。理解してるけど……
「まだ、勇気が出ないの」と答えたら、今日は日向さんに会わせてもらえないってことだよね。やっと熱が下がって元気になったのに。
それって酷くない? 我慢をしいられる日向さんの気持ちは?
一見、乱暴者で大雑把のように見えるけど、意外と日向さんは繊細で、人の気持ちの機微に気付く人だよ。傷付くに決まってるじゃない。山中さんは、私以上に日向さんのこと知ってるよね。
「……日を改めてでも」
山中さんは言葉を濁す。
「その必要はないです。やっと、熱が引いた日向さんに、これ以上ストレスを与えるわけにはいかないでしょ。それに、日向さんは日向さんです」
幼くなってもね。私はハッキリとそう答えた。山中さんは言葉を失っているみたい。
「大丈夫? ショック受けない?」
そう心配そうに訊いてきたのは、未歩ちゃんだった。
「ありがとう、未歩ちゃん、山中さん。正直にいえば、ショックは受けると思うわ。表情や態度にもでるかもしれない。日向さんに気を使わせることになるかもしれない。でもね、それはいずれ自分も通る道でしょ。だとしたら、逃げることはできないわ」
ニコッと微笑みながら告げる。
「……桜ちゃんって、ほんとメンタル強いよね。現実から目を逸らそうとしないんだもん」
そんな風に言われたの初めてだわ。
「そんなことはないわよ。無駄なことが嫌なだけよ。それに逃げても、時間を掛けて、自分の身に返ってくるからね」
私にしては普通なんだけどね。未歩ちゃんは微妙な顔をしている。まぁ、少数派だってわかってるから気にしない。
「……わかった。昼ご飯は皆で一緒に食べましょうか」
私と未歩ちゃんの会話を聞いていた山中さんは、苦笑しながらそう告げた。
「なら、昼ご飯は唐揚げ定食ですね」
唐揚げは日向さんの好物だからね。大皿に盛ってもらって皆で食べよう。私と山中さんはビールで。当然、日向さんはノンアルコールビールだけどね。
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