14 / 70
13 絶対に崩したら駄目だと思う
しおりを挟む二人で晩ご飯を食べた後、私とお祖父ちゃんは部屋に戻った。未歩ちゃんも山中さんも、日向さんも気をきかせてくれたのか、二人っきりにしてくれたから。
食後のお茶を飲みながら、お祖父ちゃんは真剣な口調で訊いてきた。
「一葉、これからどうする?」
訊かれると思ってた。
「……会社は辞めるつもり」
特に会社に未練はないからね。東京に戻ったら、病気療養を理由に辞めようと検査入院の前には決めていた。
ボーナスのことを考えたら、八月まで待ってもよかったんだけど、その間、会社で陰口言われるのも嫌だしね。限られた命なんだから、無理に我慢する必要ないでしょ。病気にストレスは天敵だからね。早まったら困る。
それに、二年ぐらいなら、余裕に暮らせるだけの貯金は貯まってるし、最悪、お金が底を尽きかけたらここにくればいいしね。医療費と食と住が無料なんだから、諸費だけで十分生活できるでしょ。
「そうか。いつ、こっちに戻ってくる?」
当たり前のように、お祖父ちゃん訊ねてきた。
「戻ってもいいの?」
「いいに決まってるだろ!!」
怒られた。
「……アパート、来月更新だから解約する」
一番の希望が叶って笑う。すると、お祖父ちゃんもニカッと笑った。
「そうか。なら、手伝いに行かないとな」
当然のように、お祖父ちゃんは言った。
いくら元気でも、いい年だからね。腰とか心配なんだけど、それを言ったらまた怒られるわね。だから、素直に感謝する。
「ありがとう」って。
それからは、暗い話題は止めて他愛もない話で盛り上がった。やっぱり、私とお祖父ちゃんは家族だと思う。だって、久し振りに家族と食べる食事は、とっても美味しかったから。色々心の充電できたし。
お祖父ちゃん、本当にありがとう。
「じゃ、ワシは一足先に帰るとするか」
そう言うと、お祖父ちゃんは手を振りながら小型フェリーに乗り込む。
お祖父ちゃん、最後まで、山中さんと全然視線を合わせようとはしなかったわね。本当にもう、大人げない。
「気を付けてね。私も退院したら、すぐに帰るから」
声を張り上げながら言った。
「おう。一葉も気を付けて。しんどかったら、しんどいって言うんだぞ。おい、近い!! 離れろ!! ひーー」
また言ってる……隣に立ってるだけなのに。変なところで過保護なのよね。もう、二十五なのに。
お祖父ちゃんの怒鳴り声は、途中、警笛の音で掻き消された。
あっ、でもわかるよ。私の名前を呼んだんだって。
「……寂しいですか?」
小型フェリーが見えなくなるまで見送っていると、山中さんが話し掛けてきた。
「うん。寂しいですね。でも、すぐに会えますから」
「そうですね……」
そう答える山中さんの笑みは、とても綺麗で寂しく見えた。まるで、泣いているよう。
「……山中さん?」
「病院に戻りましょうか?」
私の表情から察したのか、いつもの柔らかい笑みに戻ると、山中さんはさっさと車の方に歩き出す。
見間違い?
ううん、違うよね。錯覚かと思えるくらい、今の山中さんの背中からは寂しさは感じない。山中さんは隠したいんだろう。なら、私は気付かない振りをするだけ。それが礼儀でしょ。
なので、私は普通に振る舞う。
「その前に、写真撮っていいですか?」
スマホを出してお願いした。
来た時はアヒルがいたけど、今は鶏がひなたぼっこをしている。天敵の猫や犬と一緒に。これ、絶対撮らなきゃいけないでしょ。
「全く……桜井さんらしいっていうか……いいですよ」
苦笑しながら、山中さんは許可してくれた。
「ありがとうございます」
私はニコッと笑うと、そろりそろりと被写体に近付く。連射しよ。狙うは奇跡の一枚。
写真を撮りながら思う。
この島は特殊な場所だなって。
そんな環境の中で生活していたら、辛いことも悲しいことも、たくさん目にしなければならない。消化できるかできないかは、その人によって違うけど、この日常だけは絶対に崩したらいけないと、私は心からそう思った。
10
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる