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4 イケメンの次は美少女です

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「少しここで待っててください。車を駐車場に停めて来ます」

 私と荷物を下ろし、山中さんはそう言うと行ってしまった。

 一人待たされる私。別に待たされるのは構わないんだけど……ここって、病院の入口なの!? 全然、そう見えないんだけど。

「……まるで、リゾートホテルじゃない」

 それも高級ホテルの。思わず呟いてしまう。誰かに問い掛けたものじゃなかったんだけど、返事が返ってきた。とても近くから。

「そのコンセプトで建てられたかららしいよ」

 ビクッと身を竦ませ慌てて振り返ると、Tシャツに半ズボン姿の女の子がスマホ片手に立っていた。高校生くらいに見える。雑誌の表紙を飾れるくらいの美少女だ。実際の年齢は違うかもしれないけど。

「へぇ~珍しい。お姉さん、新しい島民さんだよね。お姉さん、何歳? いつこっちに来るの?」

 矢継ぎ早に少女は訊いてくる。それも至近距離で。パーソナルスペースどこいった!! 自然と一歩下がる。すると、その分少女は近付く。距離が近過ぎて少し戸惑う。

「今、着いたばかりなの。一応、検査入院で一週間お世話になるつもり」

 仕方なく、その距離で答えた。

「ということは、まだ症状が出てないのね……ふ~ん、お姉さん変わってるね。まともに会話が成立するなんて、思ってなかったよ。ほんと、お姉さん変わってる」

 楽しいのか、語尾を上げながら少女は笑う。

 不思議な人の次は、変わってるか……言い方が違うだけで同じ意味よね。そんなに、私って変わってる? ちょっと傷付くわ……

「……それに近いこと、山中さんにも言われたわ」

「陽ちゃんに? お姉さん、陽ちゃんの担当なのね。あたしと一緒ね。なら、部屋は近いわね。嬉しいな」

 テンション下がり気味に答える私とは正反対に、満面な笑みで少女は笑う。屈託のない笑顔ね。つられるように、私も笑顔になった。

「お姉さんは止めて。私は桜井一葉、二十五歳よ」

「あたしは藤木未歩みほ、十七歳。症状はまだ出てないわ。でも、ここに来て一年経つから、もう少ししたら症状が出始めるんじゃないかな。だよね? 陽ちゃん」

 最後は私の背後に向けて。振り返ると、戻って来た山中さんが苦笑しながら私たちを見ていた。

 未歩と名乗った少女は、山中さんの横に移動し彼を見上げる。

「ねぇ、陽ちゃん。桜ちゃんの部屋はどこなの? 陽ちゃんの担当なら、ご近所さんだよね」

 さんじゃないのね。初対面でちゃん付けって、さすが女子高生。フレンドリーっていうか……でも、嫌な気持ちはしないわね。

「桜井さんの要望を聞いてからだよ」

 山中さんがそう答えると、未歩ちゃんは頬を膨らませ不満そうに言った。

「え~まだ、訊いてないの!?」

「なら、あたしが代わりに訊いてあげる。桜ちゃん、海と山どっちが好き? 海だよね、海」

 それ訊いてないよね。満面な笑みで押し付けてくる。正直好きなのは、海より山かな。でも、言えないわね。

「桜井さんを困らせない」

 山中さんは軽く、未歩ちゃんの頭を小突いた。まるで兄妹みたいね。二人とも美形だし。

「陽ちゃんの意地悪!!」

「意地悪で結構。さぁ行こうか、桜井さん」

 山中さんは未歩ちゃんを置いて歩き出す。

「いいんですか? 山中さん。未歩ちゃん、恨めしそうな目で見てますよ」

「別に構いませんよ。後で、嫌というほど絡んできますから。嫌なら、はっきりと言ってくださいね。そうでないと、どこまでも助長しますから」

 苦笑しながら、山中さんは言った。でも、口ほど嫌ではなさそう。

「山中さん、酷っ。まるで、兄妹のように仲がいいのに」

 そう言いながら、私は未歩ちゃんに小さく手を振る。すると、未歩ちゃんは嬉しそうに大きく手を振り返してきた。

「兄妹……確かに、その距離感ですね」

 納得したかのような言い方に、私は自然と口角が上がる。

「未歩ちゃん、良い子ですね」

「ええ、とても良い子です」

 そう言いながら微笑む山中さんは、眼福ものでした。それはそうと、

「……まるでリゾートホテルのようですね。さっき、未歩ちゃんが、そのコンセプトで建てられたって言ってましたけど」

 キョロキョロと周りを見回しても、病院を匂わすものが何一つないわ。なので当然、病院特有の無機質な冷たい感じもしないし。

 本当にここ病院なの? 

 私が知ってる病院とは真逆過ぎる。

「この島の元オーナーだった方の意向だそうです。こんな内装だけど、設備は最新式のものばかりだから安心してください」

「そこは、安心してます。日本で唯一の専門病院ですし。パンフレットにもちゃんと記載されてましたから。それに、優秀な看護士もいますしね。……それで、山中さん、海と山って何ですか?」

「それは、診察が終わってからで。ありがとう、桜井さん」

 ニコッと笑いながら、山中さんは言った。思わず、拝みそうになったよ。危ない危ない。

 山中さんや未歩ちゃんは、私のことを変わってると言ったけど、これでも、それなりに不安があったの。絶対治らない病気だし、余命宣告されてるからね。でも、山中さんと未歩ちゃんのおかげで、その不安がかなり和らいだ気がするわ。ありがとうね。

 自然と口元に笑みが浮かぶ。想像していた入院生活とは全く違うものになりそう。そんな予感がした。

 
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