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1 検査入院先は小さな離島でした
しおりを挟む新幹線と電車にバス、そして小型フェリーを乗り継いでやってきたのは、瀬戸内海にある小さな離島だった。朝一で出発したのに、到着したのは昼をとっくに過ぎていた。
大学病院の担当医の先生に紹介された、原発性非ヘイフリック症の専門病院。
離島まるごと、病院の私有地なんだって。パンフレットを読んで驚いたわ。まぁでも、病気が病気なだけに、冷静になって考えてみれば納得できるけどね。
その離島に降り立ったのは、私一人だけだった。周囲を見渡すけど誰もいない。ちなみに、お店が一軒もない。当然コンビニもね。
この場面だけ切り取って見たら、完全に傷心旅行よね。ある意味、そうかもしれない。失恋したわけじゃないけど。
検査入院は一週間。
私はこの離島で過ごす。
晴れてたら最高の景色よね。自然ってやっぱりいいわ。でも、あいにくの雨。じゃじゃ降りじゃないだけまだましね。う~ん空気が美味しい。深呼吸しても咳込まないわ。喘息気味の私には最高の環境ね。病院にとってもね。
「……そういえば、確か、迎えが来るって言ってたよね。少し早かったかな」
腕時計に目を向け、時間を確認する。
「二時半か……三十分早かったわね」
とりあえず、雨の中で迎えを待ってるのもなんだし、お店がないから、屋根がある所に避難しようかな。そう思い、周囲を見渡す。ふと気付いた。
ここ、やけに動物が多くない? 猫や兎の島は聞いたことがあるけど……犬、猫、ん? アヒル!? それも、五羽!! 可愛い。スマホ、スマホ。これは絶対撮らなきゃいけないでしょ。
肩で傘を支え、写真を撮ろうと鞄の中に手を突っ込む。あった!! 夢中で撮りまくったわ。あまりにも夢中になり過ぎて、迎えが来てたのに気付かないほどにね。
「……撮り終えましたか?」
急に後ろから、声を掛けられた。
「キャ!!」
吃驚して、スマホ落としそうになった。慌てて振り返ると、ラフな格好をした男性が立っていた。とても格好いい。年齢は私と同じくらいか、少し上かな。
「驚かしてすみません。桜井一葉さんですね」
「は、はい。桜井です」
あ、焦った~~変な顔になってない!?
「お待たせしてすみません。桜井さんを担当することになりました、看護師の山中陽平といいます。お迎えにあがりました」
山中と名乗った男性は、首から掛けてある名札を私に見せた。わざわざ、看護師さんが迎えに来てくれるなんて思ってもいなかった。
「いいえ。私の方こそ早くきすぎたみたいで、却ってご迷惑を掛けてしまい、すみませんでした」
軽く頭を下げる。
「いえ、お気になさらず。さぁ、行きましょうか。荷物はこれだけですか? 積みますね」
持って来ていたキャリーバックを受け取り、彼はトランクを開け積み込んだ。その後、助手席のドアを開け、「どうぞ」とエスコートしてくれた。
女慣れしてると思ったけど、そんなことをされたの初めてだったから盛大に照れた。イケメンパワー凄っ!!
真っ赤になった顔を見られないように、少し俯きながら私は小さな声でお礼を言ってから車に乗った。
「ありがとうございます」
「閉めますね」
ドアまで閉めてくれたよ。そのまま、山中さんは運転席に回り込み車に乗った。
「まだ少し早いので、少し遠回りしませんか? 観光を兼ねて」
ニコッと微笑みながら、山中さんは提案してきた。
「いいんですか!? 検査入院で来たのに」
「今日の検査は、血液検査だけなので大丈夫ですよ」
なら、いいのかな。看護師さんが言ってるから大丈夫よね。
「そうですか……なら、お願いします」
いずれ遠くない未来、ここは、私にとって終の住処になる場所。だから、知っておきたい。
ニコッと微笑みながら、私はちょっとした道草を楽しむことにした。
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