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閑話
鬼だ。ここに鬼がいる
しおりを挟む『神谷さん、あのグズがどうなったか知りたくない?』
これでもかってぐらいの満面な笑みを浮かべながら、補佐官様が話し掛けてきた。
(また来た……忙しい筈なのに)
内心溜め息を吐く。無視するわけもいかないから、書類整理の手を渋々止めた。
あ~~。目が段々死んでいくのが自分でも分かるよ。だけど書記官様は、いつもと同じように完全無視だ。最早、空気としか思っていない。存在感ありありの補佐官様を。そう思える極意を是非とも教えて欲しいです。切に。
それにしても、補佐官様の補佐をしている獄卒さんたち、たぶん今頃死んでるよね……。心から御愁傷様です。胸の中で合掌を送る。
『どうしたの? 目が死んでるわよ』
(あんたのせいでしょ)
突っ込みはいれない。っていうか、原因が分かってて訊いてるでしょ。超腹黒ドSが。
「……そうですか。最近、色々ありましたから」
『そうねぇ。色々あったわね。それで、グズのこと聞きたくない?』
「話したいんですね」
自分が。そう言えば、今日判決が出る予定だったよね。
『ええ、とっても』
にっこりと微笑みながら。
ほんと、いい笑顔です、補佐官様。グズを完膚なきまでにやっつけた時も、とても良い笑顔をしてたって聞きましたよ。鬼伝に。その笑顔を見た周囲の獄卒さんたちは、ピシッと凍り付いたそうです。分かるわ~~。運が悪かったとしか言えません。
因みに、書記官様は最後まで無表情だったそうです。それはそれで、周囲を怖がらせていたと聞きました。
「そこは隠しましょうよ。それで、判決出たんですか?」
『出たわよ。クズは屎泥処送り。勿論、無料奉仕でね。偽証をした女は片角を折って放免。一緒にいた女たちは百叩きの上放免ね』
地獄は情状酌量なんてない。多少は考慮されるだろうけど。それも極僅か。基本、犯した罪で決まる。でも……。
「屎泥処ですか……? 鳥とか鹿殺してませんよね」
屎泥処は鳥や鹿を殺した者が堕ちる地獄だ。
『よく知ってるわね。確かに殺してないわね。でもそれは、人間の罪であって鬼には通用しないわよ』
「確かに、そうですね」
『困ってるのよ。屎泥処で働く獄卒が異常に少なくてね。だから仕方なく、罪人を派遣してるの。精神的に潰れても、代えはいくらでもあるからね』
鬼だ。
ここに、鬼がいる(ガクガク)。
ーー屎泥処。
その字の如く、アレを亡者に使う。アレをね……。精神的にも殺られ、全身にアレの臭いが染み付く。洗ってもとれやしない。顔がいいから尚更哀れだ。たぶん潰れたら、放り出されるんだろうな……。
「……どうしたんですか?」
補佐官様に顔を覗き込まれて、思わず一歩後ろに下がる。
『思ったより、反応が薄いから』
「どんな反応を期待してたんですか? もう終わったことですし、特に何も思いませんよ」
『そうなの? 神谷さんも中々よね』
補佐官様に意味深な台詞を吐かれた。
「それって、どういう意味ですか!?」
ちゃんと聞かないと。気になって仕方ないです。
『そういう所よ。じゃあ、仕事に戻るわね』
爆弾を落として回収することなく、補佐官様は持ち場に戻って行った。
呆然としている私に、書記官様が一言。
『手を動かせ』
慰めの言葉なんて一切ありません。少しでも期待した私が馬鹿でした。
うーー。マスカラが落ちてパンダになるよ。
(辞めていいですか? お願いします!! 辞めさせて下さい!!)
神様お願いします。
『『(辞めさせるわけないだろ)』』
笑いながら告げる服音声が、はっきりと聞こえてきました(涙)。
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