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第四冊 手帳
災難は突然降ってくる
しおりを挟むさて、右往左往しましたが、無事に父さんと契約を交わせました。パチパチ。
因みに、朱里様たちは契約を交わした途端、普通にお茶を要求する姿を見て、ちょっと、イラッとしたのはしょうがないよね。
父さんはニコッと笑いながら、超熱いお茶を淹れてきた。ナイス、父さん。暫く、茶請けもないみたい。
そうそう、正真正銘、家神様になった父さんは、まるで生前と変わらないような実体を持っていた。それはあくまで、神楽書店内だけど。それでも、実体があるっていいよね。触れれるし、体温も感じることも出来る。最高じゃない。
そう実感してた矢先だった。
最高があれば、当然最低もあるわけで……。
その切っ掛けは、白さんの一言から始まった。
「白さん。何か職場でトラブルでもあったんですか? 眉間に皺が寄ってますよ」
何故か、白さんは不機嫌モード。でも、運んできた茶碗と味噌汁はしっかり受け取ってるから、体調が悪いわけでもなさそう。
『いや、別にこれといったトラブルはない』
「だったら、この皺は何?」
相手が父さんだったら、眉間をぐりぐり押さえてたんだけど、さすがに白さんには出来ないよね。
そんなことを考えている私を、白さんは観察するように見詰めている。
『……祐樹。お前、付き合ってる奴がいるのか?』
(はぁ~~? 何言ってるの?)
思いもしない質問に絶句する。
『祐樹。父さんも詳しく知りたいな』
(寒っ!!)
冷気と共に父さん登場。確実に、周囲の温度が二、三度下がってる。満面な笑みが却って怖い。目が全然笑ってないもん。
「付き合ってる人って、いる訳ないじゃん。父さんが一番よく知ってるでしょ」
即否定した。命が欲しいですから。
『『本当に?』』
父さんと白さんに念押しされる。
「本当に」
勢いよく頷く。
白さんはまだ何か言いたそうだ。
「そもそもさぁ、何でそんなことを訊いてきたの?」
『それは、僕も気になるな』
私と父さんが白さんに詰め寄る。渋々白さんは口を割る。
『地獄で噂になってるぞ。お前が道具屋の店主と付き合ってたってな』
(なっ!? あの男と!!)
「あり得ない。あり得ない。気持ち悪っ!! 寒気がしてきた。見てよ、鳥肌たっちゃったよ」
あまりの気持ち悪さに、マジで鳥肌がたった。そもそも、何でそんな噂が出てるの!?
『祐樹があの道具屋とね……。それで、その噂の出所はどこなのかな? 勿論、白さんは知ってるよね』
一気に周囲の体感温度が下がった。父さん、霊気がだだ漏れだよ。絶対、五度は下がってるよね。
『本人が言ってたな』
「本人が、何で!?」
『何でも、別れ話が拗れて、祐樹が納品分の商品を入れなかったから、負債を抱えることになったって公言してたらしいぞ』
(はぁ~~何それ)
怒りで頭の血管切れそうだ。まだ十代なのに。
更に室内の温度が下がる。吐く息が白い。勿論、父さんと私のせい。
「ふざけんな!! そもそも、予約分を皆が喜ぶから~~って理由で、店頭に出したせいでしょうが!! 何、人のせいにしてんのよ!! マジ、クズだわ。クズ!!」
『自分のミスを祐樹のせいにね……。そんなクズ、害悪しかならないな。で、どうする? 祐樹』
「決まってるじゃない、父さん。潰す。徹底的に潰す」
この私に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。
『そうだね。徹底的にやろうか。それこそ、生きてるのが辛いと嘆くぐらいには』
「当然」
父さんの台詞にニヤリと笑う。
徹底的にやってやる。
私個人だけでなく、あの男は神楽書店に喧嘩を売ったんだ。このまま何もしなかったら、これからの商売に差し障りが必ず出てくる。感情で商売をしてるって思われ兼ねない。
マイナスだよ。マイナス。中途半端で終わらせたりはしない。絶対にね。その首洗って待ってなさい。
『……怖いぞ。お前ら』
白さんが若干引きながら呟く。
(怖い? 私が?)
面白いこと言うね、白さん。
「で、白さんはその話を信じたの?」
ニッコリと微笑みながら尋ねる。
『信じるわけないだろ』
白さんは間髪置かずに否定する。だけどさ、
「少しでも疑ったから、私に訊いてきたんじゃない?」
笑顔を崩さないまま更に尋ねる。返答次第では、この店から叩き出す。
『疑ったわけじゃない。念のために確認しただけだ』
(念のためね……)
ほんとに? まぁいいわ。今回は見逃してあげる。その代わり、
「白さん。明明後日までに、情報の収集を頼める?」
否は言わさない。
『明明後日までだな。分かった。でも、何で明明後日までなんだ?』
「十日後が、本屋の納品日だからだよ。それまでに色々用意しなきゃいけないからね。色々と。じゃあ宜しくね、白さん」
絶対、あいつは仕掛けてくる。だって、噂だけじゃ負債を負わせるには弱いからね。
もしかしたら、嘘の証人を用意するかもしれないし。まぁだとしても、突破する方法は幾つもあるんだけどね。
それじゃあ、こちらも動きますか。
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