護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
61 / 68
第四冊 手帳

災難は突然降ってくる

しおりを挟む

 さて、右往左往しましたが、無事に父さんと契約を交わせました。パチパチ。

 因みに、朱里様たちは契約を交わした途端、普通にお茶を要求する姿を見て、ちょっと、イラッとしたのはしょうがないよね。

 父さんはニコッと笑いながら、超熱いお茶を淹れてきた。ナイス、父さん。暫く、茶請けもないみたい。

 そうそう、正真正銘、家神様になった父さんは、まるで生前と変わらないような実体を持っていた。それはあくまで、神楽書店内だけど。それでも、実体があるっていいよね。触れれるし、体温も感じることも出来る。最高じゃない。

 そう実感してた矢先だった。

 最高があれば、当然最低もあるわけで……。

 その切っ掛けは、白さんの一言から始まった。

「白さん。何か職場でトラブルでもあったんですか? 眉間に皺が寄ってますよ」

 何故か、白さんは不機嫌モード。でも、運んできた茶碗と味噌汁はしっかり受け取ってるから、体調が悪いわけでもなさそう。

『いや、別にこれといったトラブルはない』

「だったら、この皺は何?」

 相手が父さんだったら、眉間をぐりぐり押さえてたんだけど、さすがに白さんには出来ないよね。

 そんなことを考えている私を、白さんは観察するように見詰めている。

『……祐樹。お前、付き合ってる奴がいるのか?』

(はぁ~~? 何言ってるの?)

 思いもしない質問に絶句する。 

『祐樹。父さんも詳しく知りたいな』

(寒っ!!)

 冷気と共に父さん登場。確実に、周囲の温度が二、三度下がってる。満面な笑みが却って怖い。目が全然笑ってないもん。

「付き合ってる人って、いる訳ないじゃん。父さんが一番よく知ってるでしょ」

 即否定した。命が欲しいですから。

『『本当に?』』

 父さんと白さんに念押しされる。

「本当に」

 勢いよく頷く。

 白さんはまだ何か言いたそうだ。

「そもそもさぁ、何でそんなことを訊いてきたの?」

『それは、僕も気になるな』

 私と父さんが白さんに詰め寄る。渋々白さんは口を割る。

『地獄で噂になってるぞ。お前が道具屋の店主と付き合ってたってな』

(なっ!? あの男と!!)

「あり得ない。あり得ない。気持ち悪っ!! 寒気がしてきた。見てよ、鳥肌たっちゃったよ」

 あまりの気持ち悪さに、マジで鳥肌がたった。そもそも、何でそんな噂が出てるの!?

『祐樹があの道具屋とね……。それで、その噂の出所はどこなのかな? 勿論、白さんは知ってるよね』

 一気に周囲の体感温度が下がった。父さん、霊気がだだ漏れだよ。絶対、五度は下がってるよね。

『本人が言ってたな』

「本人が、何で!?」

『何でも、別れ話が拗れて、祐樹が納品分の商品を入れなかったから、負債を抱えることになったって公言してたらしいぞ』

(はぁ~~何それ)

 怒りで頭の血管切れそうだ。まだ十代なのに。

 更に室内の温度が下がる。吐く息が白い。勿論、父さんと私のせい。

「ふざけんな!! そもそも、予約分を皆が喜ぶから~~って理由で、店頭に出したせいでしょうが!! 何、人のせいにしてんのよ!! マジ、クズだわ。クズ!!」

『自分のミスを祐樹のせいにね……。そんなクズ、害悪しかならないな。で、どうする? 祐樹』

「決まってるじゃない、父さん。潰す。徹底的に潰す」

 この私に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。

『そうだね。徹底的にやろうか。それこそ、生きてるのが辛いと嘆くぐらいには』

「当然」

 父さんの台詞にニヤリと笑う。

 徹底的にやってやる。

 私個人だけでなく、あの男は神楽書店に喧嘩を売ったんだ。このまま何もしなかったら、これからの商売に差し障りが必ず出てくる。感情で商売をしてるって思われ兼ねない。

 マイナスだよ。マイナス。中途半端で終わらせたりはしない。絶対にね。その首洗って待ってなさい。

『……怖いぞ。お前ら』

 白さんが若干引きながら呟く。

(怖い? 私が?)

 面白いこと言うね、白さん。

「で、白さんはその話を信じたの?」

 ニッコリと微笑みながら尋ねる。

『信じるわけないだろ』

 白さんは間髪置かずに否定する。だけどさ、

「少しでも疑ったから、私に訊いてきたんじゃない?」

 笑顔を崩さないまま更に尋ねる。返答次第では、この店から叩き出す。

『疑ったわけじゃない。念のために確認しただけだ』

(念のためね……)

 ほんとに? まぁいいわ。今回は見逃してあげる。その代わり、

「白さん。明明後日しあさってまでに、情報の収集を頼める?」

 否は言わさない。

『明明後日までだな。分かった。でも、何で明明後日までなんだ?』

「十日後が、本屋の納品日だからだよ。それまでに色々用意しなきゃいけないからね。色々と。じゃあ宜しくね、白さん」

 絶対、あいつは仕掛けてくる。だって、噂だけじゃ負債を負わせるには弱いからね。

 もしかしたら、嘘の証人を用意するかもしれないし。まぁだとしても、突破する方法は幾つもあるんだけどね。

 それじゃあ、こちらも動きますか。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

貸本屋七本三八の譚めぐり

茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】 【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】 舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。 産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、 人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。 『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

処理中です...