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第三冊 夏衣
同じことを言うんだね
しおりを挟む「…………親父をこんな目に合わせたのは、あの子で間違いないんだな」
静かになった店内で、思い詰めた様子で呟く慶介の声が響く。
(あの子ね……)
親がこんな目にあったのに、慶介の中では、まだ少年は可哀想な少年のままのようだ。どこまでお目出度いんだろう。
「だったら、何?」
私は敢えて突き放すような言い方をする。
「親父がこうなったのは、全部、俺のせいだよな」
(何を今更)
「おそらくそうね。あの魔物が欲しいのは慶介だからね」
(何が言いたいの?)
不信感が募る。
「この近くで、死神があの子と戦ってるんだよな?」
「死神様ね。……で、何が言いたいの?」
嫌な予感しかしない。
「だったら、俺が片付けなきゃいけない」
大真面目な顔をして、慶介がアホなことをほざいた。
何度、私はこの馬鹿のせいで溜め息を吐いただろう。
「行って何が出来るの? っていうか、何しにいくの?」
心底どうでもいい。これ以上、この馬鹿に関わってると自分が疲れるだけだ。
「人間の俺には何も出来ない。だから、祐樹、俺に付いて来て欲しい。頼む!!」
(こいつ、今何て言ったの……?)
聞き間違いじゃないよね。
今、この馬鹿、私に付いて来て欲しいって言ったの……?
さっき、殺され掛けたのを見てなかったの? そんなわけないよね。それを見た上で、更に私を巻き込もうとしてるの? ましてや、私を矢面に立たせようとしてるよね。マジ、いい根性してるじゃない。
「はぁ~~何言ってんの? これ以上、アホなことを抜かしてると、ここを放り出すよ」
今まで出したことのない冷たい声で最終通告をする。
周囲の空気は氷点下だ。直ぐ私の横で殺気を放ってる人もいるしね。
今まで色々な経験をしてるけど、ここまで身勝手な奴を見たことがない。自分の願望のために、他者の命を軽んじる。それを身勝手と言わず何て言うんだろう。ましてや、本人は全くそのことに気付いていない。
まさか、親友だと思っていた奴がこんな奴だったなんて、自分の人を見る目の無さをつくづく呪いたくなる。
「来てくれるなら、いくらでも頭を下げる。頼む、俺に力を貸してくれ!!」
(来てくれるなら、頭を下げる。か……)
順序逆じゃない? この馬鹿は完全に私を舐めきってる。勿論、答えは決まってるよ。
「嫌よ」
「友達だろ!!」
「それは、この件が起きるまでね。今は心底、あんたとの縁を切りたいと願ってるよ」
「祐樹!!」
声を荒げて怒鳴っても、私の考えは変わらない。
「次に、同じことを抜かしたら、躊躇なくここを放り出す」
二度目の最終通告だ。次は絶対ない。最終通告を二度もする私って、とことん甘よね。
さすがに、私が本気だって気付いたんだろう? 馬鹿でもね。一瞬、慶介は押し黙る。
「普通の人間が持ってない力を持ってるのに、それを人のために使わないのは罪だ」
ーー慶介も、あいつらと同じことを言うのか。
陰で私の悪口を言い、そのくせ、私を利用してお金儲けをしていた、あの醜い大人たちと同じ台詞を。
「人とは違う力を持ってるこそ、その力の使い道には気を付けなければならない。少なくとも、愚か者のために使う力は持ってないわ。悪いけど、今すぐ、ここから出て行って。そして二度と、私の前に顔を出さないで」
抵抗して、訳のわからないことを叫ぶ慶介を半ば強引に追い出した。私じゃなく同居人さんがね。ご丁寧にも、塩を振ってるよ。
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