護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹

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第三冊 夏衣

ボランティアです

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「……本屋の仕事してるんだな」

 ウーウーと呻くから、猿ぐつわをとってあげた。その第一声がこれだ。

 学習能力がないんじゃない。また猿ぐつわしてもいいかな?

 大人げないからしないけどさ。

「それはどういう意味? 喧嘩売ってるんだったら、買うけど」 

 軽く慶介を睨む。

 休憩時間を同居人家神様さんの美味しいコーヒーで寛いでいたのに、それを邪魔するんだから当然だよね。

「別に、喧嘩を吹っ掛けてるつもりはねーよ」

(だったら、何?)

「あっ、そう。だったら、何なの? ここは本屋だよ。本屋の仕事をしてて当たり前じゃない。まさか、してないと思ってたの?」

(いやいや、さすがにそれはないよね)

 自分で言った台詞を、心の中で突っ込んでしまったよ。

 だって、そうでしょ。

 神楽さんの時から看板は出してないけど、本屋を営んでかなりの年月が経っている。たまにめんどくさいと思うけど、ちゃんと商店街の組合にも参加してるよ。慶介だって参加してたよね。ここが本屋だって、商店街の誰もが知ってる筈。

「…………」

(無言は肯定ってことでいいのかな? ……マジか~~)

 思わず頭を抱えそうになった。

「はぁ~~何言ってるの? 何年、ここで本屋してると思ってんの? 慶介、あんた馬鹿なの?」

 心底呆れた口調になったよ。

「……馬鹿は言い過ぎだろ」

(何言ってんの? こいつ)

 多少言葉遣いが乱暴になってもしょうがないよね。

「馬鹿でも可愛い方でしょ。本屋じゃなきゃ、何してるのよ?」

 やや乱暴に訊いたら、とんでもない答えが返ってきた。

「心霊相談とか、お祓いとか……」

(こいつ、マジ馬鹿でしょ)

 いや~~目が点になったわ。

「そんなわけないでしょ!! そんなこと一度もしたことないわ!!」

「でも、お前んとこに案内しただろーが」

「だから何!?」

「何って……?」

(あーー納得したわ。何で、俺たちがいるから生活出来てるんだろって、言った意味が分かったわ……)

 ほんと頭が痛くなる。

 マジでそう思ってるようだ。だから、上から目線だったんだ。影響受けてたからって、あれはないと思ってたからね。

 どうやら慶介の中で、私は神社のお情けで日々の生活が送れてるって思ってたようだ。今も。教育し直したんじゃないの!?

 周囲の温度が急に二、三度低くなったの気付いてる?

 付喪神様と同居人さんからのプレッシャーが、ひしひしと伝わってくるよ。

 これ以上ないくらいに、慶介の信用が下がってる。もう、マイナスだよね。マイナス。

「はっきり言っとくけど、慶介から紹介された人から、お金を貰ったことは一度もないから。一度もね!! こっちは、仕事の合間にボランティアしてただけよ。慶介は商売してたようだけど」

 きっぱりと否定する。そして、少し嫌味をプラスした。

「ボランティア……」

(何で、慶介が衝撃受けてんのよ)

 開いた口が塞がらない。

「大体、五分もいずに、本や物を置いて行くだけ。椅子を勧めても座らずに帰って行くのが大半ね。置いて行った物はこちらで処理してるけど。これって、完全にボランティアだよね。違う?」

「…………」

(黙り込みたいのはこっちだよ。ほんと、いい加減にしてよね)

「自分に都合が悪いと黙り込む。ほんと、いい癖よね。まぁ、いいわ。ボランティアも今回で終わり。これ以上、慶介と関わり合うつもりはないし、護国神社とも一線を置く。そもそも、神社のフォローなんて特に必要ないしね。これは決定事項。宮司長さんにも伝えてあるから」

「…………上から目線だな」

 ブチ切れそうになったけど、何とか抑え込んだ。

 外野の皆様は完全にブチ切れている。また室温が三度程下がったよ。

 慶介は腕を反対の手で擦りながら震えている。

「慶介にだけは言われたくない台詞よね。この際だから言っとくけど、ここは本屋と同時に、でもあるんだよ。神様が休んでいらっしゃる神聖な場所なの。私は本屋の傍ら、その場所を直接護ってる。直接ね。だから、慶介よりも遥かに偉いし決定権があるの。分かったら、もう二度とそんな馬鹿げたこと言わないでくれる。マジ、不快だから」

 そう切り捨てた。口ではそう言ったが、私も悪い所があったと思う。

 友達だと思って、立場を曖昧にしていたのが悪かったかもしれないって。ほんと、距離感って難しいよね……。

 そんな反省を内心していた時だった。

 ドアが壊れそうな勢いで開いた。

 ドアベルが派手に鳴る。

 飛び込んで来たのは、死神様と少し白髪がある人間だった。


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