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第三冊 夏衣
どうして気付かないの
しおりを挟む客注商品のリストと追加注文の商品リスト。それから、売店からの取り寄せ商品のリストをプリントアウトする。
B5の紙三枚分。
リストをホッチキスで一つに纏めるとチェックする。
今回はいつもと比べて少し多いかな。売店からの取り寄せ商品が増えてるのは気になるけど。
これ以上多くなるようだったら、それとなく売店の店長さんに釘さしとかないとね。自分とこの分は自分でしろって。もしそれでも増えるんだったら、割増料金を戴かないとね。ボランティアじゃないんだから。勿論、今までの分も上乗せして請求するよ。当然だよね。
「追加注文の一部は月末に回すとして……取り合えず、明後日の便で送るのは、客注商品と雑誌をメインに。売店の分は三分の一だけでいいかな」
ブツブツと呟きながら、本棚から本を次々と抜いていく。
ある程度予想して卸していた分が綺麗になくなっていった。この瞬間が好きだ。無くなると気持ちいいよね。それに面白いし。
でもこうしてみると、つくづく思うよね。地獄の鬼も私たち人間と大して変わりがないって。
若い女鬼さんはファッション誌が人気だし、主婦層には生活雑誌が人気だ。この頃はオタク本も密かに人気がある。意外にジグソーパズルも人気だよ。時代だね~~。
本を見てると、どこの世界でも生活基盤はあんまり変わんないんだって実感するよ。まぁ、ベストセラーに関しては当てはまらないけどね。
何度も繰り返し確認しチェックしてから、段ボールに入れて梱包していく。
梱包作業は蒼や陸が手伝ってくれるから、そんなに時間が掛からない。今回は、紺も高藤さんも手伝ってくれたから、アッという間に終わった。後は、宛先を記入した紙を段ボールに張り付けるだけ。
売店の商品については、前回多めに仕入れていたから何とか対応出来るし。特定メーカーの商品については、再度発注を掛けるから大丈夫。といっても、ネット注文だけどね。次の週に回してもいいかな。あくまで、善意でやってることだし。
ペットショップに行けば揃うものもあるけど、今は、あまり外出しない方がいいからね。行くのは止めとこう。紺の件もあるし、【魔物】の件もあるしね。
そんなことを考えながら、売店の分を段ボールに入れてる時だった。
『あいつは、何も分かっていないな』
いつしか側にいた朱里様が苦々しげに話し掛けてきた。
『祐殿が仰った言葉の意味を考えてるようには、到底見えないわ』
矢那さんの僅かに怒りを含んだ台詞に、私はチラリと慶介の方に目をやる。慶介と目が合った。
何か自分が言えば、猿ぐつわをされると思っている慶介は口を噤んでいるが、その目は明らかに、私と白さんが言った台詞に対して嫌悪を抱いている目だった。
もしかしたら、こちら側が一方的に意見を押し付けていると考えてるのかもしれない。まぁ、そう取られても仕方ないことはしてるけどね。
慶介を見てると、決定的な溝が出来てるって……嫌でも実感するよ。溜め息も出てこない。
『『本当に視野が狭いよね』』
蒼と陸は眉をしかめながらハモる。
「そうだね……」
その言葉しか出てこなかった。諦めに近い心境のまま作業に戻る。
慶介……少しでも考えたことがあるの?
あの少年の姿をした【魔物】に喰われた亡者と生者についてーー。
知ってるよね。白さんたちから教えてもらった筈だよね。
喰われるってことは【消滅】するってことなんだよ。
それは今世だけでなく、来世も、来来世も、来来来世も、それから先の人生も、無惨に奪われたってことなんだよ。
どうして、そのことに気付かないの……?
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