護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹

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第三冊 夏衣

距離

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 また、酷いことを言われるかもしれない。でも、もう大丈夫。

 私は顔を上げると慶介と向き合う。

 慶介は冷や汗を流しながらガタガタと震えていた。拘束されてるのにね。それ程怖いらしい。もはや、虚勢すらも張れない状態だった。

 当然だと思う。

 神に属する朱里様の怒気をまともに受けたんだから。加護持ちとはいえ、普通の人間が平常心でいられる筈ないよね。

 ちょっと可愛そうだと思うけど、私以外のそこにいる誰もが、慶介に同情することはなかった。隣にいる慶介のお父さんもだ。それ程、酷い態度を彼は私たちにとったのだから。

 慶介は気付いてるのかな?

 いや、今はそんな状態じゃないか。

 私を【魔物】と罵ったんだよ。そこまでならまだ許せる。すっごく傷付いたけどね。

 でも、付喪神様と死神様を私の仲間だと言ったのは完全にアウト。

 つまり、慶介、貴方は遠回しに神様を【魔物】だと罵ったんだよ。宮司なのにね。考えられないよ。

 知ってたよね。ここをサポートするってことはそういう意味だから。忘れてしまったのかな? それとも、始めから信じてなかったのかな? どっちでもいいけど。

 もう一度、教えてあげたらどんな顔をするんだろう? まぁ、自分から言うつもりはないけどね。そこまで優しくないし、第一、私が言っても信じないでしょ。……そんなことを考える私って、とても意地悪で性格悪いよね。

 そこまで考えて、思わず苦笑が漏れる。私はこの時、慶介と距離を置くことに決めた。

「慶介。貴方の戯言ざれごとをこれ以上聞く時間がないの。ていうか、必要ないから。だって、【魔物】に感化されたとはいえ、さっき怒鳴った台詞は本心だよね。どうやら慶介の中では、この書店は護国神社に養って貰ってたようだし、こんなお荷物はいらないよね。そうそう、死神様が【魔物】について聞きたいことがあるようだから、さっさと答えて出て行ってくれると助かるわ」

 私なりの決別の言葉。

 それに対して苦々しく顔を歪め、私を睨み付ける慶介。反対に、隣にいる宮司長さんは絶望からか放心状態だ。対照的な二人。

 慶介。これでも怒ってるんだよ。

 私の大切な存在を【魔物】って罵倒したことにね。

『……ここからは、俺たちの出番だな。さて、詳しく話してもらおうか。少年の姿をした【魔物】についてな。素直な態度を期待する。まぁ、お前が辛いだけだから、俺たちはどっちでも別に構わんが』

 白さんはそう告げると、ニヤリと笑った。他の死神様たちも同じ様な笑みを浮かべている。

(うっわ……全員黒っ)

 勿論、声にはしませんよ。

 私と付喪神様たちは白さん率いる死神様たちにその場を譲り、後ろに下がった。


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