40 / 68
第三冊 夏衣
距離
しおりを挟むまた、酷いことを言われるかもしれない。でも、もう大丈夫。
私は顔を上げると慶介と向き合う。
慶介は冷や汗を流しながらガタガタと震えていた。拘束されてるのにね。それ程怖いらしい。もはや、虚勢すらも張れない状態だった。
当然だと思う。
神に属する朱里様の怒気をまともに受けたんだから。加護持ちとはいえ、普通の人間が平常心でいられる筈ないよね。
ちょっと可愛そうだと思うけど、私以外のそこにいる誰もが、慶介に同情することはなかった。隣にいる慶介のお父さんもだ。それ程、酷い態度を彼は私たちにとったのだから。
慶介は気付いてるのかな?
いや、今はそんな状態じゃないか。
私を【魔物】と罵ったんだよ。そこまでならまだ許せる。すっごく傷付いたけどね。
でも、付喪神様と死神様を私の仲間だと言ったのは完全にアウト。
つまり、慶介、貴方は遠回しに神様を【魔物】だと罵ったんだよ。宮司なのにね。考えられないよ。
知ってたよね。ここをサポートするってことはそういう意味だから。忘れてしまったのかな? それとも、始めから信じてなかったのかな? どっちでもいいけど。
もう一度、教えてあげたらどんな顔をするんだろう? まぁ、自分から言うつもりはないけどね。そこまで優しくないし、第一、私が言っても信じないでしょ。……そんなことを考える私って、とても意地悪で性格悪いよね。
そこまで考えて、思わず苦笑が漏れる。私はこの時、慶介と距離を置くことに決めた。
「慶介。貴方の戯言をこれ以上聞く時間がないの。ていうか、必要ないから。だって、【魔物】に感化されたとはいえ、さっき怒鳴った台詞は本心だよね。どうやら慶介の中では、この書店は護国神社に養って貰ってたようだし、こんなお荷物はいらないよね。そうそう、死神様が【魔物】について聞きたいことがあるようだから、さっさと答えて出て行ってくれると助かるわ」
私なりの決別の言葉。
それに対して苦々しく顔を歪め、私を睨み付ける慶介。反対に、隣にいる宮司長さんは絶望からか放心状態だ。対照的な二人。
慶介。これでも怒ってるんだよ。
私の大切な存在を【魔物】って罵倒したことにね。
『……ここからは、俺たちの出番だな。さて、詳しく話してもらおうか。少年の姿をした【魔物】についてな。素直な態度を期待する。まぁ、お前が辛いだけだから、俺たちはどっちでも別に構わんが』
白さんはそう告げると、ニヤリと笑った。他の死神様たちも同じ様な笑みを浮かべている。
(うっわ……全員黒っ)
勿論、声にはしませんよ。
私と付喪神様たちは白さん率いる死神様たちにその場を譲り、後ろに下がった。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
貸本屋七本三八の譚めぐり
茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】
舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。
産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、
人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。
『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!
葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!!
京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。
うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。
夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。
「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」
四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。
京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる