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第二冊 絵本
爆弾発言
しおりを挟むずっと黙って聞いていた矢那さんが、さらりと爆弾発言をかましてくれました。
『その手があったか!!』
朱里様が矢那さんの案に食い付く。紺もだ。蒼と陸も勿論賛同する。
反対に私は焦る。黙ってたら、どんどん話が進んで行きそうな勢いだった。
「それこそ、無理!! だって、死神の仕事は忙しいんだよ。迷惑に決まってるじゃない」
『一応、有給があるのでは?』
(はぁ~~。何言ってるの、朱里様)
「私事で、貴重な有給を使わせる訳にはいかないよ。それに、そもそもあの補佐官様が認めるわけないでしょ」
(仕事はホワイト、精神はブラックだよ。あの職場。それに、白さんも休日にやりたいことあるでしょ)
迷惑掛ける訳にはいかない。
『『試しに相談してみれば?』』
蒼と陸にそこまで言われたら、「駄目だよ」とさすがに言えなかった。
渋々、皆に促されるままスマホを手に取る。視線が痛い。
白さんが来てくれたのは、夜の十時を少し過ぎた頃だった。今回は死神バージョンだ。まだ、仕事中なんだって。
(本当~~にごめんなさい)
当事者を無視してサクサクと話を進めている朱里様たち。私は口を挟めずに、心の中で白さんに謝る。
『…………で、俺に護衛を頼みたいと』
低い声で確認する白さん。
(呆れてますよね)
真っ直ぐ見詰められると、顔をそむけたくなる。
あ~~怒ってますよね。忙しいのに、こんなことを頼んだ私が悪い。言い出したのは付喪神様たちだけど。
「いや……そこまで大袈裟にしなくていいです。パトロールしてる時に、頭の端で覚えてくれるだけでいいので」
慌てて訂正する。
『別に怒っていない。寧ろ……』
(寧ろ……? 何?)
『有給は取れんのか?』
埒があかんとばかりに、朱里様が出て来る。
『いきなり、取れるわけないだろ? それに、いつまで続くか分からん状態なのにか?』
確かに、白さんの仰る通りです。
『まぁ……祐樹が言った通り、暫くはパトロールの際、この上空を通るように皆に言っておく。後は時間が許す限り、俺が一緒にいてやろう』
「それじゃ、白さんが休めないんじゃ……」
『俺はどこでも寝れるタイプだ。既婚者でもらない。その点は自由だ。だから、安心していい』
(ん? どういう意味かな? ……まさか!?)
「もしかして、【ここに泊まるきですか!?】」
被せて、同居人さんが口を挟む。
『その方が安全だろうが』
【ここは、私がいるので安全です】
『確かに。家神のお前がいれば安心だ。だが、外に出られないお前は祐樹を護れないだろう。祐樹は仕事を休みたくない。いつ外に出る用事があるか分からんのなら、一緒に住んだ方がいいだろうが』
【それを言うなら、貴方が仕事に行ってる間はどうするんですか?】
どっちも引かない。
片方は紙、片方は口頭。静かな応酬だけど、同居人さんと白さんの間に険悪な空気が漂っているような気がするのは私だけ?
そんな二人を見て、付喪神の皆はやれやれと溜め息を吐いている。だけど矢那さんだけは、目をキラキラ輝かせていた。何でかな?
「……あの~~。お忙しい白さんに、そこまでして頂くわけには……」
やんわりとお断りする。当たり前でしょ。
【そうです】
折角、穏便にお断りしようとしてるのに、同居人さんは畳み掛けるように言い放つ。
(ヒェ!!)
白さんの顔が怖い。眉間の皺が今まで見た中で一番増えてるよ……。
白さんがそこまで私のことを心配してくれてるのは嬉しい。嬉しいけど、そこまで甘えるのはちょっとね……。だから、正直にやんわりと伝えようと思う。
「白さんが心配してくれてるのは、とても嬉しいです。私が、死神様たちに距離をとられているのは知ってましたから。……こんな頼みを真摯に考えてくれて、本当にありがとうございます。だからこそ、白さんには無理してほしくないんです。だから、出来る範囲で、しんどくない範囲でお願い出来ますか?」
話し終えた後も、白さんは黙って私を見詰めている。
(白さん……?)
首を傾げる。そんな私を暫く見詰めた後、白さんは大きな溜め息を吐いた。
『…………分かった。出勤前に寄ることにする。報酬はそうだな、飯を頼む』
(そんなことでよかったら、いくらでも)
「分かりました。ありがとうございます。好き嫌いはありませんか?」
にっこりと微笑みながら尋ねる。
『特にない』
そう短く答えると、白さんは仕事に戻って行った。
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