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第二冊 絵本
手紙(1)
しおりを挟む満開だった桜も散り、初夏にはまだ早いのに、時折半袖でもいいんじゃないかなって、思える時期にその手紙は届いた。
驚いたことに、差出人は高藤さんからだった。
「何で、今になって?」
差出人の名前を見ながら呟く。
疑問に思うのも無理はなかった。
店を出て車に戻る高藤さんの背中を思い出す。
彼は一度も振り返ることも、立ち止まることもなかった。背筋を伸ばし、一歩一歩ゆっくりと歩いて行く。
あの時、私は強い覚悟と決別の意思を背中から感じた。だから、もう二度と会うことはないと思っていた。
その高藤さんが、まさか、連絡を取ってくるなんて、一片も考えてなかったよ。
(意思が揺らいだとは考えにくいよね)
そう考えながらも、現に今、手紙が届いてるわけで。だとしたら、高藤さんに何かがあったからか。
(取り合えず、読んでからよね。話はそれからかな)
私は手紙の封を切った。
書かれていた内容は三点。要約すると、
自分がもうすぐ、この世からいなくなること。
(それは、薄々感じていた)
そして紺のこと。
(紺の置かれてる状況のことね)
結果、近い未来に起きると予想されること。
この三点だ。
問題は三点目。
紺が高藤さんの所でどんな風に受け入れられてたか。
そのせいで、自分の死後、抑止力がなくなった親族の間でどのような反動になって表れるのか。
もしかしたら、紺を奪いに、ここに親族の誰かが現れるかもしれない。その心配だった。
私のことだから、絶対紺を護ろうとするだろう。
その時、親族の誰かが乱暴なことをするかもしれない。いや間違いなくするだろう。と書かれてあった。
(結構、過激な一族だよね)
でも、ある意味納得出来る自分が悲しい。
大袈裟じゃなく、それこそ、裏から手を回して社会的な制裁に打って出る可能性も充分考えられる。紺を手に入れるためにね。
ステータスが高い人程、そういう方面に肩入れする一面を持ってる人が意外と多い。嘗ていた教団の、顧客の三分の一は裕福層だったからね。
まぁでも、高藤さんが何も手を打っていないとは到底考えられない。
現に、出来る限りの手は打っていると断言しているので、取り合えず安心かな。手紙にも、安心してくれと書かれてたし。
それでも絶対とは言えないから、最後には、「外出の際は特に用心して欲しい」旨で締め括られていた。
一通り読み終えると、私は大きな溜め息を吐く。溜め息しか出ないよ。
高藤さんが手紙を送ってきた気持ちは理解出来る。私が同じ立場だったら、同じように手紙を送ってた。それに、出来る限り迷惑が掛からないように手を打った筈。
「注意するけどさ……ほんと、厄介事が今頃になって降って来たよね」
思わず、愚痴っぽくなる。
その時だ。ずっと黙っていた彼が、とんでもない提案をしてきたのは。
【しばらく落ち着くまで、地獄巡りでもしたらどうですか?】
(…………地獄? まさか、あの地獄!? いや~~それはちょっと……)
心配してくれてるのは嬉しいけど、それは無理です。私の精神が持ちません。絶対に!!
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