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第二冊 絵本
観桜祭(3)
しおりを挟む店内に戻ると、蒼と陸が笑って白さんの服の裾を引っ張っていた。紺はそんな白さんを見上げている。ニコニコと笑いながら。
微笑ましい光景に自然と口元が緩む。紺の笑顔を見ていると、心配しなくても大丈夫だって思えてくるよ。
(うん。絶対、大丈夫)
更に口元を緩めた私と反対に、子供たちに囲まれた白さんは、苦虫を噛み潰した顔をしていた。そんな白さんを見て、まだまだ口元が緩む。
だらしない顔になってないかな。でもどうしても、緩んじゃうだから仕方ないよね。だけどそろそろ、白さんを救出してあげないと。
「白さん。何か飲みます? 一応、お酒もありますよ。つまみも出しましょうか?」
白さんに尋ねる。
蒼と陸はパッと掴んでいた手を放した。白さんのシャツはしわくちゃになっている。解放された白さんは、軽く溜め息を吐いた。
元々、飲兵衛の翁と朱里様のためにお酒を用意しといたからね。勿論未成年だから、買ったのは慶介だ。お金は私が出したけどね。二十歳になって一週間でも、未成年じゃないからね。
結構高い日本酒とかを十本以上買ったから、店員から不審な目で見られたよ。お店でも始めるとか思ったのかな。
後、ビールも三ケース買った。発泡酒じゃないよ。ウイスキーも数本買ったかな。後、ワインも。
結構な出費だけど、日頃お世話になってるし、こういう所で返しておかないとね。
「祐樹の手作りか?」
「まぁ、一応」
「だったら、貰おう」
少し、白さんの機嫌が直る。口角が少し上がってるからね。
「分かりました。少し待ってて下さい」
そう声を掛けてから奥に消えると、大皿に適当に盛り付ける。
つまみっていっても、和食のおばんざいに近いかな。唐揚げに、だし巻き玉子に里芋の煮っころがし。カボチャを甘辛く煮たものにホウレン草のお浸し。レンコンのきんぴら等など。
包丁が持てるようになってからは、父の手伝いをしていたので、そこそこは出来るつもりだ。まぁ、不味くはないと思うけど。
戻ってくると、彼が用意したのか、白さんはビールを美味しそうに飲んでいた。
「どうぞ」
テーブルに皿を置く。
「……これ、全部作ったのか?」
驚く白さん。
「はい。口に合えばいいけど。……皆も食べるでしょ」
いつの間にか、矢那さんも朱里様も来ていた。
食べ物とお酒の匂いに、ほんと敏感だよね。基本、付喪神様やあやかしはお酒好きだから当然かな。
(にしてもさ……これって、完全アウトだよね)
見た目、幼稚園児を入れての酒盛りが始まっていたからね。知らない間に、見たことがない付喪神様も紛れてるし。
今警察が来たら、間違いなく私と白さんが捕まるよね。もし来たとしても、見えないから大丈夫だけど。
(だからって、この光景ってどうなの)
考えるの止めよ。皆楽しんでるしね。一応、蒼と陸、紺は二十歳をとうに越えてるからOK。
「飲んでもいいけど、翁たちの分は残しといてよ」
(一応、皆に念を押しとかなくちゃ。絶対、再現なく飲むよね)
「無くなったら、買いに行けばいいことではないか」
(飲み潰す気満々だね、朱里様)
「そうよ。白殿が居るのだから。一緒に行けばいいのよ」
(確かにそうだけど……絶対、買うのを止められることはないけどさ、そのお金はどこから出てるか知ってる? 矢那さん)
飲兵衛がもう一人いたことに、思わず苦笑がもれる。
でも、まぁいいかな。紺も楽しそうに笑ってるし。
結局そのすぐ後に、翁とその友人たちが遊びに来た。
作っていた料理とお酒はあっという間になくなり、白さんはお酒の買い出しに走り、私と彼はおつまみ作りにてんてこ舞いだった。
とても大変だったけど、すっごく楽しい一日だった。
皆の笑い声を聞くだけで幸せな気持ちになれるって、本当なんだね。
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