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第二冊 絵本
狐の紺
しおりを挟む寂しそうな背中をした高藤さんを見送ってから店内に入ると、蒼と陸が心配そうな表情をしながら立っていた。
双子の付喪神様の視線は、私が持っている絵本と私を往復している。しっかり聞かれていたようだ。
それにしても、まさか自分の胸の内を初対面の人間に吐露することになるなんて考えてもみなかった。高藤さんを見てると、ついポロッと出たんだよね。
(そう言えば……ここで父の話をしたことなかったよね)
皆も父のことを話題にするのを避けてたし、私から話題にすることもなかった。心配掛けたかな。
「私は大丈夫だよ。皆がいるし。それに、幸せだって言ったでしょ」
そう言って、私は微笑む。
『『僕たちも、裕に出会えて幸せだよ!!』』
にっこりと双子の付喪神様は笑った。
「ありがとう。蒼、陸」
その言葉とその笑みだけで、私はとても幸せだ。心が温かくなる。私は蒼と陸の頭を、感謝の気持ちを込めて撫でた。温かい。
『『…………裕。紺は無事なの?』』
少しの間の後、か細い声で蒼と陸が訊いてきた。心配そうな表情で私を見上げる。
「コン?」
『『うん。紺色の紺。狐のコン』』
(ああ~そっかぁ~。この絵本のタイトルからきてるんだね)
表紙には紺色の着物を着た狐の絵が描かれている。着物の色とタイトル。それから狐の鳴き声で、紺ね。
前から思ってたけど、付喪神様の名前って響きに意味があって、漢字には然程意味がないんだよね。当て字が多いかな。矢那さんもそう。蒼もそうだよね。まだ、陸と朱里様は関連があるけど。直接的なものじゃない。
でも、付喪神様たちにとって、名前はとても大事なものらしい。個人を識別するものだからね。
『『紺、大丈夫?』』
心配そうに、私の手元にある絵本を見詰める蒼と陸。
「今から診てみるけど、たぶん大丈夫だと思うよ」
これまで、何度か傷付いた付喪神様を看たことがあった。
私が辛うじて出来るのは本の修復の真似事ぐらいだ。修復師じゃないからね。だけど、看病ぐらいは出来た。その手伝いに駆り出されたことも何度もある。一応、経験者。
だからかな。傷付いた時に出す、付喪神様特有の力の波動みたいなものを記憶していた。
高藤さんの前では敢えて黙っていたけど、実はそこを一番心配していたんだ……。
袱紗を通して触った感じ、記憶していた嫌な波動は伝わってこなかった。でも、絶対とは言い切れないから、敢えて「たぶん」を付けた。
「大丈夫」という言葉が聞けて、蒼と陸は安心したようにニコッと笑った。
いつもは子ザルのような蒼と陸が、子リスのように微笑む可愛さに、私はやられる。自然と口角が上がった。だらしない顔になる。
堪らず順番に蒼と陸の頭を撫で回すと、椅子に腰掛けた。絵本をテーブルに置く。
私を挟むように立つと、髪を乱した蒼と陸が手元を覗き込む。
(大丈夫だと言われても、やっぱり心配だよね。ごめん、少し不謹慎だったよ)
反省した私は、心の中で蒼と陸に謝った。
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