17 / 68
第二冊 絵本
序章
しおりを挟む……いつからだろう。
自分と大して変わらない、何処にでもいるような平凡な少年のことが、気になって仕方がなくなったのは。
冗談や馬鹿話が出来る兄弟がいなかったせいかもしれない。
同じ歳の友人はいたが、そんな話をすることすらなかった。友人たちの背後には親や家があったからだ。
僕の周りには常に人が居たし、特に寂しいとは思わなかった。
本当に寂しいと気付かなかったのか、気付かない振りをしていたのか、今でもよく分からない。でも……心のどこかで寂しいと訴えていたのは間違いない。
まぁ、理由なんてどうとでも言える。
正直なところ、僕自身も自分のことなのにはっきりとは分からなかった。子供だったしな。
ただ少年と遊べれば、それだけで幸せだった。心が満たされた。
だから、少年が自分の家に居る理由なんて、当時の僕にはどうでもよかった。
反対に、その事を誰かに知られたら、少年に会えなくなるかもしれない。そっちの方が、僕にとって恐ろしいことのように思えて仕方がなかった。
だから、ずっと黙っていた。
黙って、隠れて少年と遊んだ。
保障のない日々だが、当時の僕は、少年との関係が永遠に続くものだと信じて疑わなかった。本当にガキだった。
それを痛感させられたのは、あの日だ。
忘れもしない。
夏の暑い日だったーー。
いつもの時間に、少年との約束の場所に行ったが、少年の姿は何処にもなかった。
僕は使えるものを全部使って一生懸命少年を捜した。
その時になって気付く。少年の名前さえ知らなかったことに。
容姿だけで捜すのは、正直困難だった。手掛かり一つさえも見付けられない日々。不思議なことに、屋敷に住む誰一人少年のことを知らなかったのだ。
「幻でも見てたんじゃないか」って言う者もいた。
それがどんなに悔しかったか……。何度も何度も唇を強く噛み締めた。切れることも多だあった。
(間違いなく少年はいた。いたんだ!!)
大人たちに何を言われても、僕は決して諦めなかった。
年単位に月日が流れてもだ。
我ながら、その執着には呆れたが。もはや、苦笑しか出ない。
僕が再び少年に会えたのは、それから十年程経った頃だ。
本当に偶然だった。
城が趣味だという友人に誘われて、半ば無理矢理に連れ出された時だった。
僕は何かに誘われたような、奇妙な感覚に襲われた。
そして誘われるまま入った書店に、少年がいたんだ。
昔と変わらない姿で、双子の子供と楽しそうに遊んでいた。
少年は僕を見て、驚いたような泣きそうな顔をした。
普通なら、その少年が記憶している少年の筈がない。実際、歳が合わない。
なのに僕は、その少年が自分と一緒に遊んでいた少年だと確信していた。不思議とこれっぽっちも疑わなかった。気持ち悪いとも思わなかった。
僕は固まったままの少年に近付き、泣き笑いの変な顔をしながら言ったんだ。
「今度は君が鬼だよ」と……。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
貸本屋七本三八の譚めぐり
茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】
舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。
産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、
人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。
『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!
葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!!
京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。
うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。
夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。
「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」
四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。
京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる