6 / 68
第一冊 桜のこより
白い袱紗(3)
しおりを挟む【お疲れ様です。祐樹さん】
コーヒーとクッキーと共に差し出された紙に書かれていた言葉。口元が綻ぶ。
「まぁ、いつものことなんだけどね……」
神楽さんに任されてまだ日は浅いけど、それでもかなりの本好きだと自負してる。そんな私に本の処理の依頼なんて。
やるせなさに、思わずぼやいてしまう。
ぼやきながらも、白い袱紗に包まれたままの本をそっとテーブルに置く。
【……この本、命が宿ってますね】
同居人さんの言葉に私は微妙な表情になる。
「う~ん。命っていうよりは、強い想いが命になったものの方が近い気がするけどね」
僅かな違いが気になった。
同居人さんにそう答えた直後。タイミング良くテーブルに置いてあったスマホが鳴った。パネルを見ると、思った通り慶介からだ。
「……もしもし、慶介」
「ああ、俺だ。今日来たか?」
「来たよ。今さっき帰ったところ」
「そっか。……で、中身見たか?」
「まだ見てない。そんなにヤバそうには思えないんだけど」
チラリと、白い袱紗に視線を送ってから答える。
「そうか……。まぁ、お前がそう言うんなら間違いないな。……でも、あの夫婦が言うには、勝手に動いたりしてたみたいだぜ。それから、一人連れて逝ったみたいだぞ。確か、甥っ子だったな。死因は交通事故だったらしい。何でも、死の間際、やたら独り言が多くて心配していたって、言ってたな。それに……その本、実は棺桶に入れてたらしいぞ」
でもの当たりから、慶介の声のトーンが段々低くなる。
(ふ~ん。独り言が多くて、勝手に動いて、連れて逝ったね……)
連れて逝く程、悪いモノには見えないけど。それが本当なら、かなり厄介な案件だ。
「分かった。それを含めて、こちらで請け負うよ。……でさ、一つ気になることがあるんだけど」
「何だ?」
「白い布に包む理由は分かるよ。まっさらな白い布は、悪い気を閉じ込める作用があるからね。でもさぁ、何で、依頼に来る人が慶介の所で売ってる袱紗に包んで持って来るわけ?」
「決まってんだろ? 一応、俺んちで祈祷している商品だからな。結構人気商品だぜ。まっさらな白い布が必要で、それが神社で売られてたら、普通即買いするだろ」
慶介は全く悪ぶれない。
そうだろうなって、思ったけどさ。それって、
「がめつくない? 神社なのに、俗物過ぎだよ」
「はぁ~~何言ってるんだ。神社っていっても、色々維持費に金が掛かるんだよ。祈祷料だけで賄えるわけねーだろ。これもちゃんとした商売だよ。現に、参拝してくれた方の役に立ってるんだから、構わねーだろ」
そう言うと、慶介は電話を切った。私はテーブルにスマホを置く。
まぁぶっちゃけ、慶介が言う通り、神社の修繕や維持費にお金が掛かるとは思う。結構、古い神社だからね。だけどさぁ、もう少しオブラートに包もうよ。一応、神職なんだからさ。
そんなことを思いながらも、慶介が言っていた言葉が引っ掛かっていた。勝手に動いたっていうのも気になるが、それよりも、
ーー甥っ子を連れて逝った。
そっちの方が気になる。
それが真実か偶然なのかは分からないが、少なくとも、あの夫婦は連れて逝かれたと考えている。そう考えるような事が起きていたのは間違いないようだ。
【本当に、連れて逝ったと思いますか?】
「思わない。そんな悪い感じは全く感じないんだけど……」
そう訊いてくるところをみると、同居人さんも私と同じ意見のようだ。よかった~~。
それよりも感じるのは、とてもとても純粋な強い想いだ。
純粋で強い想いは、純粋なだけに、下手をすると悪いモノへと変換してしまうことがある。
しかし今回は、そんな感じは全くない。
なのに、あの夫婦は慶介に甥っ子を連れて逝かれたと語った。だから、ここに誘導されたんだけど。考えても埒があかない。
「……取り合えず、本人に訊いてみるのが一番手っ取り早いよね」
そう呟くと、私は白い袱紗を手に取った。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
貸本屋七本三八の譚めぐり
茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】
舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。
産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、
人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。
『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!
葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!!
京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。
うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。
夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。
「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」
四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。
京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる