護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹

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第一冊 桜のこより

白い袱紗(3)

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【お疲れ様です。祐樹さん】

 コーヒーとクッキーと共に差し出された紙に書かれていた言葉。口元が綻ぶ。

「まぁ、いつものことなんだけどね……」

 神楽さんに任されてまだ日は浅いけど、それでもかなりの本好きだと自負してる。そんな私に本の処理の依頼なんて。

 やるせなさに、思わずぼやいてしまう。

 ぼやきながらも、白い袱紗ふくさに包まれたままの本をそっとテーブルに置く。

【……この本、命が宿ってますね】

 同居人さんの言葉に私は微妙な表情になる。

「う~ん。命っていうよりは、強い想いが命になったものの方が近い気がするけどね」

 僅かな違いが気になった。

 同居人さんにそう答えた直後。タイミング良くテーブルに置いてあったスマホが鳴った。パネルを見ると、思った通り慶介からだ。

「……もしもし、慶介」

「ああ、俺だ。今日来たか?」

「来たよ。今さっき帰ったところ」

「そっか。……で、中身見たか?」

「まだ見てない。そんなにヤバそうには思えないんだけど」

 チラリと、白い袱紗ふくさに視線を送ってから答える。

「そうか……。まぁ、お前がそう言うんなら間違いないな。……でも、あの夫婦が言うには、してたみたいだぜ。それから、一人みたいだぞ。確か、甥っ子だったな。死因は交通事故だったらしい。何でも、死の間際、やたら独り言が多くて心配していたって、言ってたな。それに……その本、実は棺桶に入れてたらしいぞ」

 でもの当たりから、慶介の声のトーンが段々低くなる。

(ふ~ん。独り言が多くて、勝手に動いて、ね……)

 連れて逝く程、悪いモノには見えないけど。それが本当なら、かなり厄介な案件だ。

「分かった。それを含めて、こちらで請け負うよ。……でさ、一つ気になることがあるんだけど」

「何だ?」

「白い布に包む理由は分かるよ。まっさらな白い布は、悪い気を作用があるからね。でもさぁ、何で、依頼に来る人が慶介の所で売ってる袱紗ふくさに包んで持って来るわけ?」

「決まってんだろ? 一応、俺んちで祈祷している商品だからな。結構人気商品だぜ。まっさらな白い布が必要で、それが神社で売られてたら、普通即買いするだろ」

 慶介は全く悪ぶれない。

 そうだろうなって、思ったけどさ。それって、

「がめつくない? 神社なのに、俗物過ぎだよ」

「はぁ~~何言ってるんだ。神社っていっても、色々維持費に金が掛かるんだよ。祈祷料だけで賄えるわけねーだろ。これもちゃんとした商売だよ。現に、参拝してくれた方の役に立ってるんだから、構わねーだろ」

 そう言うと、慶介は電話を切った。私はテーブルにスマホを置く。

 まぁぶっちゃけ、慶介が言う通り、神社の修繕や維持費にお金が掛かるとは思う。結構、古い神社だからね。だけどさぁ、もう少しオブラートに包もうよ。一応、神職なんだからさ。

 そんなことを思いながらも、慶介が言っていた言葉が引っ掛かっていた。勝手に動いたっていうのも気になるが、それよりも、

 ーー甥っ子を連れて逝った。

 そっちの方が気になる。

 それが真実か偶然なのかは分からないが、少なくとも、あの夫婦はと考えている。そう考えるような事が起きていたのは間違いないようだ。

【本当に、連れて逝ったと思いますか?】

「思わない。そんな悪い感じは全く感じないんだけど……」

 そう訊いてくるところをみると、同居人さんも私と同じ意見のようだ。よかった~~。

 それよりも感じるのは、とてもとても純粋な強い想いだ。

 純粋で強い想いは、純粋なだけに、下手をすると悪いモノへと変換してしまうことがある。

 しかし今回は、そんな感じは全くない。

 なのに、あの夫婦は慶介に甥っ子を連れて逝かれたと語った。だから、ここに誘導されたんだけど。考えてもらちがあかない。

「……取り合えず、本人に訊いてみるのが一番手っ取り早いよね」

 そう呟くと、私は白い袱紗を手に取った。


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