裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第二章 ラッシュ港攻略

エルヴァン聖王国(2)【SIDE:文官たち】

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 単調な仕分け作業。

 届けられる大量の書類の殆どが、不可の箱に積まれていく。

 明らかに不可だけが異様に多い書類の山。その全部が解決しない問題ばかりだった。仕分けしている文官の顔も暗い。

 凶作と魔物の駆除。雨による劣化からくる陸路と川の整備。どれもが金と人手が掛かる。執務室にいる誰もが、重要な問題だと承知はしている。しかし数が多過ぎて、最早、どれから手を付けたらいいか分からない状態だった。だから、敢えて手は付けないでいる。

 故に、今では決済が通るのは、大した問題のない、悪く言えばどうでもいい緊急性のないものばかりだった。

 国としてもう終わっている――

 辛うじて生き永らえているのは、この国に勇者様が、ユリウス王子がいらっしゃるからだ。

 国王に処刑されるのが怖くて、誰もが口にこそしないが、胸に思うことは皆同じだろう。国を捨て逃げ出したくても、家族を人質に取られていては、逃げ出すことも叶わなかった。まぁ、逃げる場所などないが。

 ていのいい奴隷だと。仕分けをしながら文官たちは悲観する。

 今日も変わらない一日。そう思っていた。だがそれは唐突に終わりを告げた。

 いきなり執務室内に浮かび上がる映像。

 一度も見たことがない野性的なユリウス王子。目を奪われたのは、その背後に広がるのはどこまでも続く青空だった。

 澄み渡る青空に太陽。

 そして白い雲。

 テーブル一杯の美味しそうな食べ物。

 その全てがここ、エルヴァン聖王国にはないものばかりだった。

「何だ、これは!?」

 驚愕の声と同時に、派手に椅子が倒れる音がした。その音に、文官たちは我に返り映像から目を離す。

 ざわつく王宮。

 殺気を放つ国王。

 ビクッと身を竦ませ震える文官たち。

 その様子を見て、「チッ」と舌打ちする国王。いつもなら、舌打ちした後は文官たちを怒鳴り飛ばすのだが、国王はそれよりもこの映像を止めることを優先した。どうにかしないといけない。そう考える頭はまだあったようだ。

 国王はすぐに映像の発生源である魔法具を見つけ出し踏み潰した。そのすぐ側によく太ったが二匹。チュッと短い鳴き声を上げると逃げ出した。

 逃してしまったことに苛々する国王。執務室の隅で震える文官たち。

 そんな彼らの耳に、少年の淡々とした声と怒号が聞こえてきた。

 まさか!?

 おそらく、この場にいる全員が同じ考えに至っただろう。

 慌てて執務室の窓を開ける国王。その目に映ったのは、映像を食い入るように見詰める人たちの頭だった。王宮で働く騎士や従者や侍女たちだ。中には文官もいた。

「陛下!!」

 慌てる声と同時に宰相様が飛び込んで来る。その宰相の前で国王は怒鳴った。

「そんなくだらないものを見る前に仕事しろ!!」

 それを聞いた宰相様は、崩れるようにその場に座り込み、ポツリと「……もう終わりだ」と呟いた。

 国王はまだ気付いていない。

 まだ王宮内ならどうにかなる。

 そう思ったからなのか。それとも反射的に怒鳴ったのか。どちらでも結果は同じだろう。国王を見上げる彼らの目は、最早、尊ぶべき国王を見る目ではなかった。

 国王は終わりの一手を自分の手で打ったのだ。

 いや違う。五年前に打ったのだ。

 文官たちは一礼をすると、静かに執務室を後にした。

 アーク王子が言う通りなら、この国には未来はないだろう。逃げるとしても、魔物が出る中を逃げるわけにもいかない。運良く他国に渡れても、同盟国にこの映像が流れたのなら、絶対受け入れてはくれないだろう。自国に災いが降り掛かるのを恐れて。

 神と精霊王に見限れられた国なのだから、同然だ。

 行き場所がないのなら、この国に留まるしかない。先がないこの国にーー

 ならせめて、最後は家族と共にいたい。

 文官は心からそう思った。


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