裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第二章 ラッシュ港攻略

草葉の陰で泣いてるな

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『クソッ!! くたばり損ないが!! やはり生きていたのか!!』

 この怒鳴り声は国王のものだな。

 蹴る物もなくなった。壊れるものはもう壊れて床に散乱している。怒りにまかせて暴れまくった国王のせいで、貴重な調度品が灰になった。勿体ない。あれ一個で、平民四人が一年働かないで暮らせるのに。

 俺たちは遠く離れたラッシュの町で、実はこっそりとエルヴァン聖王国の様子を皆で鑑賞していた。と言っても、途中からだけど。実は筒の中に、もう一つ魔法具を忍ばせていたんだ。

 大きさは小さな虫程度。だから気付かれにくい。一応、開けた者に貼り付くように設定されている。テストには丁度よかったからな。まだ試作品で上手くいくか分からなかったけど、これは十分合格じゃないか。そんなことを考えてると、

「多少画像が粗いけど、ちゃんと機能しているようね。音声も多少雑音が入ってるけど、聞き取れる。今回のテストは一応合格ね。後は……それを取るには……でもそうすると……う~ん。これ以上、大きく出来ないし」

 カイナ班の魔法具の開発と作製を一手に引き受けているフィーラが、ボソボソと呟いている。その横で、マリアが呆れていた。

「まるで子供が癇癪おこしたみたいね、大の大人が」

 俺もそう思う。

「そうだな、我儘な子供が大人になったみたいだな」

 さすがのジムも呆れて口元が少しヒクヒクしてる。

「まぁアレでも、昔は賢王って呼ばれてたんだけどな」

 映像を見ながら俺は答える。別にフォローをしたいわけじゃない。確かに、十年前はそう呼ばれていた。

「アレでか? 賢王の意味知ってるのか。勇者であるアークのことを殺そうとしただろ? ライドもアイリスも、俺たちの家族もアイツに殺された。それで、賢王か?」

 そう言われたら、何も言えないな。レイがそう思うのも無理はない。

「所詮、張りぼてだったってことだ」

 妙なカリスマ性があったから、そう思われていただけだ。本人の資質は別として。

 真の賢王って、何か有事が起きた時にこそちゃんとした判断が出来、民を導ける王のことだと俺は考えている。そして、先を読む力も必要だと思っている。

 少なくとも、こんな風に臣下の前で当たり散らすような真似は絶対にしない。必要以上に殺しはしない。まぁそもそも賢王なら、こんな事態に始めからならないと思うけどな。そんなことを考えてると、

『…………ユリウス』

 漸く落ち着いた国王は息子の名前を呼んだ。呼ばれたユリウス王子はビクッと身を竦ませた。

『ユリウス。分かって……いるか? ……が正念場だ。お前にはラッシュ港の奪……還に向かってもらう。ここで負けたら、お前も俺もお終いだ。なに、案ずるな。強力……な助っ人を用意して……やろ……う。お前は勇者であらねばならぬのだ』

 急に聞こえにくくなってきた。でも、何を言っているのかは十分理解出来た。

「勇者であらねばならぬか……」

 俺はポツリと呟く。

 そうだろうな。

 そうでなければ、この国は維持出来ないところまで来ている。偽物でも勇者がいるからこそ、辛うじて維持出来てる状態だ。諸外国からは冷ややかな目で見られてるけどな。

 晴れぬ空と同じように。

 最早、勇者に縋り付くしかないだろう。嘗ては人族の中で最強と言われ栄華を誇っていた国が……ほんと、五年でここまで墜ちるとは、ご先祖様はさぞかし無念だろうな。絶対、草葉の陰で泣いてるぞ。そんな国に助っ人? ないない。

「こんな落ちぶれた国に手を貸す奴なんている訳ねーだろ」

 鼻で笑いながらジムが馬鹿にする。

「俺もそう思う。間違ったら一蓮托生だ。誰が好き好んで泥舟に乗る? 俺なら絶対、手を貸さないな。辛うじて、国の体を保っているような国になんか……あっでも、国お抱えの冒険者なら手を貸す可能性があるんじゃないか。貸さないと、取り消されてしまうからな、資格が」

 言ってる途中で思い出す。

 あ~国王がいう、強力な助っ人は冒険者か……

 高ランクの冒険者は、冒険者登録した国の有事に際して、駆け付けなければならない義務がある。駆け付けなければ、最悪資格が剥奪されることもあるって、前に聞いたことがあったな。

「確かに、アークの言う通りだね。国お抱えの冒険者なら手を貸す可能性は高いな。でも、すんなりと手を貸すかどうかは分からないけど」

 確かにな。

 打算的とはいえ、冒険者たちにもプライドはある。職人気質なところを持っている冒険者も結構多い。高ランクほど。魔物を狩ることに誇りを持っている彼らが、領土問題に関して首を縦に振るだろうか……いや待て、相手が魔族だしな。振る可能性は十分あるな。考えても仕方ないか。まぁここは、参加ってことにしといた方がいいな。大して問題にも壁にもなんないけどな。

 この場にいる全員の方が遥かに強い。大袈裟でもなく。背負ってきた過去が違うんだ。

『皆大丈夫だよ。リアがいるから』

 ずっと黙っていたリアがニコッと笑う。無邪気な笑顔で言っている内容は超凶悪。

「そうだな。困った時は頼むな」

 リアを否定しない。ずっと否定されてたからな。

 だけど俺は、リアにはできれば人を殺してほしくはなかった。魔族軍に属している以上、絶対とは言えないが……凶霊が人を殺さないのはおかしいんだけどな。たぶん俺だけない。リアを知る全員がそう思っている筈だ。

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