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第二章 ラッシュ港攻略
生贄【SIDE:貴族たち】
しおりを挟むその日も変わらず、朝から曇り空だった。
雨が降らないだけマシだが、肌寒い。暦では初夏に入ろうとしている季節なのだが、相変わらず上着がいる。
そんな中、この場所は特に寒かった。ガタガタと身体が震える程に。
原因は国王が放つ殺気だっだ。
「何故、小麦と大麦の物価が急激に上がってるんだ!? 答えろ。大臣」
謁見の間で、財務大臣を無理矢理跪かせ、その首に刀の刃をあてがいながら、国王は殺気を放ちながら低い声を放ち詰問する。その顔色は幽鬼のように青白かった。
「そっ、それは「それは何だ?」
恐怖でどもる財務大臣に、容赦なく追求し追い詰める国王。国王の手に力が入る。大臣の首に赤い線が浮かぶ。襟を赤く染めた。恐怖のためか、大臣は痛みを感じないようだ。
「ラッ、ラッ、ラッシュ港からの積荷が入って来ないからです!!」
冷や汗をタラタラと流しながら、必死で理由を述べた。
「どういうことだ? 野盗に積荷を浚われたのか? それとも、代官が自分の懐にいれたか?」
重ねて、国王は財務大臣を詰問する。どちらも十分考えられることだった。しかし、ここで曖昧な返事はできない。なので、回答は一つしかない。
「……どちらも、報告を受けておりません」
小さな声で答える財務大臣。
「受けておらぬか。なら、何故だ? ……どうして黙っているんだ、大臣。まさか、分からぬで済ませていないだろうな」
それは財務大臣だけではなく、法務大臣か騎士団長に振るべき話だろうと、国王以外は思った。二人共この場にいるのだから問える。だが、我が身が大事な彼らは卑怯にも押し黙る。
彼らは財務大臣を生贄にしたのだ。
何度も言うが、謁見の間には法務大臣と騎士団長がいたにも関わらず、尚もしつこく財務大臣を詰問し続ける国王。
このままでは、死ぬのは自分だけだと考えたのだろう、逃げる法務大臣と騎士団長の腕をしっかりと財務大臣は掴み引っ張った。
「…………法務大臣と騎士団長と協力して、目下調査中です」
それが、この答えだ。間違ったことは言ってはいない。事実を述べただけだ。
名指しされた法務大臣と騎士団長は、面白い程に顔色を変える。反対に、国王はまるで狂ったように笑い出した。
「クックック。アハハハ。そうか、そうか。調査中か。調査中なんだな」
ひとしきり笑う国王。つられるように、財務大臣の口角が上がる。
財務大臣は国王と目が合った。その瞬間、財務大臣は自分が失敗したことに気付いた。国王の目は全く笑ってはいなかったのだ。鋭い目で、財務大臣を見据える。
「そんなにおかしいか……?」
瞬間、国王は財務大臣の肩から胸に掛けて刀を振り下ろす。財務大臣の口からゴホッと血が溢れ、大理石の床を汚す。そしてそのまま、財務大臣は前のめりに崩れ落ちた。国王自身も返り血を浴びる。
その惨劇に謁見の間に悲鳴が上がる。
だが、国王は気にしない。悲鳴を上げる貴族たちを剣呑な目で睨み付ける。そして、冷たく言い放つ。
「無能はいらん。いいか、今日中に原因を突き止めろ。突き止めなければどうなるか、分かってるな?」
財務大臣の背中を踏み付けながら、国王はその場にいる貴族たちを今一度見渡す。特に、法務大臣と騎士団長に視線を止めてだ。その上で、再度、その場にいる全員に言い放った。
「無能を食わす金も余分な食糧もない。財務大臣は我が身を犠牲にして国に貢献してくれた。その勇気に拍手しようじゃないか!!」
シーンと静まり返った謁見の間に、国王の拍手が響く。誰も拍手はしない。そんな臣下たちに尚も国王は言い放つ。
「続きたい者がいれば名乗れ。この私が自ら送ってやる」
そう訊かれて名乗り出る者などいるものか。それでも、国王は引き下がらない。後何人殺せば、気が済むんだ。いつ、自分たちが開放されるんだ。グルグル回るのはそんな考えばかりだ。
元々昔から、国王は過激な性格だった。只怒鳴り付けはしていたが、臣下を殺したりはしなかった。我が子は殺そうとしたが……それには理由があったからだ。しかし今は……
もう何人も理不尽な理由で殺されている。
唯一、国王と対等に話していたエモンズ大司祭はさっさと見切りを付けて、この国から出て行った。
頼みの綱である勇者は、国王の愚行を止めることができずに、真っ青な顔で固まっている。
五年ーー
そうたった五年で、全てが変わってしまったのだ。
太陽が消えただけで、この国はおかしくなった。
重苦しい空気と緊迫した空気が混雑している中で、誰もが息を潜め、生贄から逃れようと目線を下に向け、国王と視線が合わないようにする。
そろそろ限界だと大勢が思った時だった。その空気を破るように、扉をノックする者があわられた。
国王の許可をえて近衛騎士が入って来た。室内の惨状に息を飲むが、すぐに平常心を取り戻し要件を述べる。
「陛下。ラッシュ港に派遣していた騎士が謁見を申し込んで下りますが、どう致しましょうか?」
この時、この場にいる国王以外の全員がこう思った筈だ。
天は自分たちを見放さなかったと。新たな生贄が自ら飛び込んできたとーー
だがそれは、新たな地獄の始まりだと気付くのはすぐ後だ。
そう……新たな地獄が、真の地獄が始まろうとしていた。
「通せ」
国王のこの言葉によって。
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