裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第二章 ラッシュ港攻略

新しい仲間

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 奴隷商が来るまで、この場に転がしていてもよかったが、芋虫が五月蝿いので、執事と一緒に全員を地下牢に放り込むことにした。俺直々に。

 地下牢へと続く扉を開けた途端、襲ってきたのは人を殺害できるほどの悪臭だった。

 酷いってものじゃない!! 

 汚物と体臭の臭い。それと獣臭と僅かな腐臭。大量の生ゴミ臭。様々な臭いがブレンドされている。相乗効果アリアリだな。口呼吸したら、マジ吐きそう。いや、絶対吐く。

 ジムは地下牢に続く扉に手をかけた瞬間、「俺無理!!」と叫んで、鼻を押さえながら逃亡してしまった。

 さすがに、これは、獣人には耐えれないよな……人族の俺でも逃げ出したい。

 でも、必死で耐える。袖口を鼻と口を覆いながら。慰めにもならないが。

「奴隷商が来るまで、ここがお前らの部屋だ。精々、過去の栄華を惜しむんだな。ああそうだ。これから先、牢屋がお前らの部屋になるんだから、ちょうどいい予行練習になってよかったな」

 わざと嫌味ったらしく言ってやる。ちょっとした嫌がらせだ。

 辛うじて、意識を保ててる元代官と執事は悔しさと憎しみで顔を歪めている。他は気を失っていた。泡は吹いてないから大丈夫だな。それにしても、強い感情は悪臭に勝てるらしい。

 まぁ精々、苦しむんだな。

 心の中で汚く吐き捨てた。その時だった。

 カチャ。

 地下牢の奥から、金属が当たったような音がした気がした。あまりにも小さな音だったから、気のせいかと思ったくらいだ。

 俺は考えるより先に足がそっちに向いていた。奥に行く程臭いが濃くなっていく。さすがの俺も、これ以上は無理だな。踵を返そうとしたら、またカチャっと音がした。今度ははっきりと聞こえる。

 気のせいじゃないな……まるで、呼ばれているようだ。
 
 俺は必死で我慢しながら奥に進む。どうやら、金属音は一番奥の牢屋からのようだ。

「止めろ!! 行くな!!」

 芋虫が鉄格子を掴みながら騒いでいる。

 なにかヤバイものでも隠してるのか?

 無視して、俺は先に進んだ。鉄格子の先には生き物の気配がしない。見えるのは鎖の一部だけだ。するとまた、カチャと音がした。

「誰かいるのか?」

 そう問い掛けても返事はない。俺は剣で鉄格子を斬る。そのまま中に入った。入って気付いた。

「アーク? どうしたんだ?」

 俺と同じ様に口元に布を当てたレイが尋ねる。俺が返事をしないのを不審に思い、牢屋の中に足を踏み入れる。

「………………アーク? なんて酷いことを!! 綺麗な布を用意してくる!!」

 レイの息を飲む音と歯軋りの音が聞こえた。

「いや、いい。このまま連れて行く」

 俺は着ていたローブを脱ぐと床に敷いた。

「少し痛いと思うが、我慢するんだぞ。すぐに終るからな」

 そう声を掛けてから、俺はその子供の体を抱き上げる。同時に、ボトボトと音がした。構わず、俺は子供の体をローブの上に寝かし付けた。

「もう終わったからな……もう痛くないからな」

 俺はその小さな体をローブごと抱き締める。そしてそのまま立ち上がった。

 無言のまま運ぶ。途中、元代官たちの前を通り掛かった時だ。元代官と執事の悲鳴が上がった。そのまま牢屋の奥へと、ズルズルと尻を付けたまま後退る。

 そんな彼らを、俺は一瞥する。心底冷酷な目で。こんなゲスに構っている時間が勿体ない。俺は何も言わず地下牢を後にした。

 地上に出た俺は、子供を外に連れて行った。そのまま地面に下ろす。

 成金趣味の屋敷よりも、外の方がこの子にとって嬉しいだろう。そう思ったからだ。

『……お兄ちゃん。ありがとう。あの木の根元にリアを下ろして』

 耳元でそう囁く声がした。幻聴じゃない。俺の横で浮かぶ女の子がいるからな。俺は言われた通り、大木の根元に子供を寝かした。

『ありがとう。リア、この木が大好きだったんだ』

 寝かした子供の隣に座り、下から大木を見上げる。

「だったら、ここに君のお墓を建てないといけないな」

『お墓はいらない。ここに埋めてくれたらいいや。だって、リア一人お墓があるのはズルいじゃない』

「ここは君の家だったのか?」

 そういえば、ラッシュ港攻略の事前調査で、代官には死んだ妻子がいたって記されてたな。

 まさかっ!?

『うん。そのまさか。あのクズはリアの実の父親だよ。父親だってこれっぽっちも思ってないから安心して』

「……あのクズは君と君の母親を殺したのか?」

『正確に言えば、あのクズとアバズレがだけどね。あの女、元はクズの愛人だったの。お母様と結婚する前から付き合ってたのよ。お母様と結婚したのも、代官の地位と持参金目的だったしね。ほんと、最低な男よね。お金を巻き上げるだけ巻き上げて、用済みになったら事故に見せ掛けて殺す。邪魔になったあたしは、地下牢で餓死。人間としてもあり得ないほどのクズでゲスな奴よ』

 あっけらかんと言ってるけど、言ってる内容はかなり酷い。腹が煮えくり返る。

「…………そうだな。クズでゲスだ」

 リアに掛ける言葉が見付からない。

 見付からないが、あの一家を、特に元代官とその妻は只の奴隷で終わらすつもりはない。最下位の奴隷に貶してやろう。絶対、楽に逝かせてやるものか。

『お兄ちゃんって、ほんと優しいよね。怒ってくれるのも、ばっちいリナの体を抱き締めてくれたのも、お母様以外でお兄ちゃんだけだよ。お兄ちゃんがショックを受ける必要なんてないよ。でも、我儘を言えるのなら……もっと早くお兄ちゃんに会いたかったな。出来れば、生きているうちに。そうすれは、人をここまで恨まずに死ねたのに』

 リアは悲しそうに笑う。

「…………リア……」

『……名前を呼んでくれたのお母様以外で、お兄ちゃんが初めてだよ。すっごく嬉しい。決めた!! リア、お兄ちゃんのお手伝いする。リア役に立つよ。友達を使えば情報収集は簡単に出来るし』

 友達……?

 足元でチュという鳴き声がした。足元を見ると、一匹のドブネズミが俺を見上げていた。

『リアのお友だち。リアの体をあげたの』

 そうニッコリと笑いながら言われて、俺は険しく顔が歪む。

『リア、邪魔?』

 泣きそうな顔でリアは訊いてきた。

 今まで色んな人の険しい表情を見て来たんだろう。そう思うと、俺はリアを抱き締めずにいられなかった。幽霊だから抱き締めることなんて出来ないけど。

「邪魔じゃない。手伝ってくれると助かる」

『ほんと!! ありがとう、お兄ちゃん』

 ボロボロと泣き笑いしながら、リアは俺の首に抱き付いた。冷たいけど、なぜか感触があった。

 カイナ班に新しい仲間が加入した。


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