裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第二章 ラッシュ港攻略

因果応報って言葉知ってるか

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 最後の一人がドサッと倒れた。

 うん。サクッと終わったな。あまりにも呆気なさ過ぎって拍子抜けしたっていうか……もう少し根性出せよ、と突っ込みたくなる程簡単に終わってしまった。

「マジ、運動にもなんね~消化不良もいいところだぜ」

 ジムが吠える。

 だろうな。でも、ジム君、君は一人で部隊を壊滅出来る程の強者だよ。彼らにそのレベルを求めるのが、そもそもの間違いだろ。それに、ジムに付き合えるくらいの実力があれば、こんな所にそもそもいないんじゃないか。

 心の中で突っ込みを入れる。俺が口にしなくても突っ込んでくれるヤツがいるからな。

「当たり前だろ。何を言ってるんだ、ジム。考えてみろ。少しお金を誤魔化すぐらいでいい気になってる小物が飼ってる奴らなんだから、レベルも底辺に近くて当たり前じゃないか」

 うん。その通りだ。今日も調子がいいな。レイの毒舌。

「それでコイツらどうするの?」

 マリアが俺に訊いてきた。

「このまま放っておけばいい」

 逃げ出すならそれでも構わない。ネズミが一匹や二匹逃げだしても、特に困りはしないからな。それに逃げ出した所で、この街を出ることが出来ないんだ。なら、一体どこに隠れるんだ?

「分かった」

 マリアはニッコリと笑うと屍を踏んでいく。レイもジムもだ。勿論、俺も。カエルの四重奏だな。あっ、カエルに悪いな。

 ジムは重厚な扉に手を掛け押すと、扉はすんなりと開いた。

 罠の予感大だな。

 予想通りに、俺たちが屋敷に入ると同時に魔法攻撃されるが、全く効かなかった。ていうか、ジムの威圧で簡単に弾かれてしまった。一斉攻撃だったのに。

「「「弱っ!!」」」

 思わず声が出てしまった。

 作戦はよかったと思う。だけど、残念。相手が悪かった。でも、この四人の中でジムが一番魔力耐性低かったんだけどな……弾かれた魔法プラス威圧でほぼ自滅。番犬にすらなっていない。

「レベル低すぎないか、マジで」

 だからといって気を抜くつもりはないが、あまりの情けなさに呆れてしまう。

 苦笑しながら、俺たちは先へと進んだ。途中使用人とでくわし悲鳴を上げられたが、気にせず無視して進む。用があるのは、代官一家と執事だけだからな。他は用はない。

 それからは攻撃も罠もなく進み、目的地に到着。

 いよいよ代官様一家とご対面だな。

 だが、扉を開けると誰もいなかった。ついさっきまで人の気配がしたのに。

 逃げ出したのか? 窓からか? いや、ここは二階だ。窓からじゃ無理だろ。だとしたら……隠し部屋か、通路だな。

「ジム」

「分かってる」

 ジムはそう答えると、迷うことなく一番新しい臭いの前に移動する。獣人の鼻は誤魔化せられない。それは本棚の前だった。そして、一冊の本を取ろうとしたら、カチッという音がした。

 本棚が横に動く。

 その先は小さな小部屋になっていた。まぁそれでも、俺たちからすれば十分な広さだけどな。ざっと見た限り、最低限の生活用品も揃っていた。たぶん、食料も備蓄されているだろう。

 この避難部屋にいる以外の人間の命は全部捨て駒か。

「自分たちだけ助かるつもりだったとは、人間の皮を被った化け物だな」

 レイは奥で固まって震えている奴らに向かって、侮蔑の言葉を吐き捨てた。

 ビクッと身を竦ませ震える代官一家と執事。

 俺はそれを冷めた目で見ている。レイはこいつらを人間の皮を被った化け物って罵ったが、人間の本質ってこういうものだって、俺は身に沁みて知っている。特に、権力を持つ者にその兆候が強く出ることもな。

「このような場所に隠れているとは。殺されたくなければ、さっさと出て来い」

 恐怖で体が動かないのか、出て来ない代官一家と執事。なら、燻れば出てくるか。虫のように。

 俺は、狼煙に使う煙玉を隠し部屋に投げ入れた。使わないからいいか。煙はあっという間に隠し部屋を覆い尽くし、耐え切れない虫は這うように出て来た。

 ジムが辛そうなので、さっさと隠し部屋を閉める。ほんと、芋虫のようだな。もしくは、ダンゴムシか……こいつらには一番似合う姿だな。役者も揃ったし、始めるか。

「残念だったな、代官。やり過ごせるとでも思ったか?」

 俺は芋虫の群れを見下ろしながら問う。

「……俺たちをどうするつもりだ? 魔族」

 本人は睨み付け威嚇しているようだけど、俺たちからしたら、子犬がじゃれて来たみたいなもんだ。

「そうだな。因果応報って言葉知ってるか? 貴様らには奴隷になって働いてもらおうか」

 ニヤリと黒い笑みを浮かべながら俺は告げた。

 確かに俺たちは奴隷など以ての外だと考えてる。だけどそれは、普通の無害な市民に対してだけだ。魔族や人間を奴隷として売っていた奴らに対しては適応しない。当たり前だろ。

「奴隷商には連絡してるから、すぐに来る筈だ」

 レイがそう告げると、代官の妻が幼子を抱き締めながら嘆願した。

「どうか!! 子供たちは助けて下さいませ!!」

「悪いがそれは無理な相談だな」

 速攻断る。

「この子たちには罪はありません!! どうか慈悲を!!」

 慈悲? 

 その言葉をお前たちが使うのか――

「お前たちが慈悲を願うのか。これまで散々、嘆願する言葉を無視し続けて、虐げ、蹂躙し、甘い蜜を吸い続けていたお前たちが、慈悲をかけろと。残念だが、お前たちに掛ける慈悲などない。これっぽっちもな。言っただろう。因果応報だと。お前たちは自分の子よりも幼い者を平気で奴隷として売っておきながら、自分の子は助けろと。どの口が言うんだ。随分虫がよすぎると思わないか?」

 怒りを抑え込みながら発する声は、とてもとても低く冷たい。

「お前らに心はないのか!!」

 芋虫が叫ぶ。妻は泣き出した。執事はただただ震えている。子供たちは泣きながらも俺たちを睨み付けていた。

「情? お前らに対してか、そんなの持ち合わせてるわけないだろ。これからは家畜として生きていくんだな」
 
 俺はそう吐き捨てた。

 
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