裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第一章 踏み荒らされ花

追放という名の処刑宣告

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「…………今、何と言った? エモンズ大司祭よ、もう一度言ってくれないか」

 静まり返った謁見の間に、国王の震える声だけが響いた。

「アーク王子に魔力はありません」

 反対にエモンズ大司祭ははっきりとした声で事実を告げる。その返答に、国王はわなわなと震えだす。

「そっ、そんなこと信じられるか!! アークは勇者の証を持って生まれてきたのだぞ!!」

 反射的に国王は立ち上がり、殺さんとばかりの勢いでエモンズ大司祭を怒鳴り付けた。

 謁見の間にいた、貴族たちや諸外国から招いた招待客たちはざわめき出す。

 それもその筈だ。

 こんなことはあってはならない。なぜなら、今日は待ちに待った双子の王子の五歳の誕生日、魔力測定の日なのだから。

 謁見の間には自国の貴族だけでなく、他国の王族も多く祝いに駆け付けていた。

 新たな勇者の誕生の瞬間を祝うためにーー。

 まさに、歴史的な一日になる筈だったのだ。

 それが、エモンズ大司祭の一言で全てが覆され壊された。

 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で、勇者の証を持って生まれてきた王子を祝うために、聖教国の代表として、教皇に代わりエモンズ大司祭もまた招かれていた。

 本来なら、声高らかにアーク王子を祝う賛辞の言葉がある筈なのに、エモンズ大司祭から告げられたのは正反対の言葉だった。

 ただただ戸惑いしかない。

 勇者の証がある者が魔力無しとは考えられなかったからだ。

 国王の左側に立っていたアーク王子はビクッと身を竦ませ、今にも泣きそうになっていた。幼くても、自分のことを言われていることくらい理解出来た。アーク王子の手の甲には、炎と翼の痣が刻まれている。

「何度鑑定を行っても、判定は覆りません。アーク王子は魔力を持ってはおりません。ただ……反対に、ユリウス王子は魔力をお持ちです。それも、莫大な魔力を」

「なっ!? それはまことか!?」

「はい」

 恭しく答えるエモンズ大司祭。

「……それはどういうことだ?」

 国王の疑問は尤もだった。いや、その場にいる全員がそう思っただろう。

「私には分かりかねます。ただ……」

「ただ、何だ!? 申してみよ!!」

 言葉を濁すエモンズ大司祭に国王は強く促す。

「本来、勇者が持つべき力をユリウス王子が持っているとだけ」

 エモンズ大司祭はそれ以上何も言わなかった。

「つまり、アークがユリウスから証を奪い取ったということか」

 とてもとても低い声で、国王はそう結論付けた。

 エモンズ大司祭は否定も肯定もしない。だが、何も言わないということは、肯定だと皆受け取った。

 怒りが魔力と反応して室内の温度をどんどん下げていく。

 泣きそうになっていたアーク王子が、気丈にも国王の袖を掴んだ。ユリウス王子は恐怖で立ち尽くしている。足元には黄色の水溜りが出来ていた。

「…………アーク」

 国王がアーク王子を見下ろす。その目は愛情の欠片はどこにもなかった。

 怒りと嫌悪感。そして憎悪と蔑みだけ。そこに親子の愛情はもはやないーー

「父上……?」

 その声に弾かれたのか、国王はアーク王子の手を勢いよく振り払った。

 小さな体は簡単に宙に浮き大理石の床に叩き付けられた。

 短い悲鳴が上がる謁見の間。

 幼い子供が頭から血を流しても誰も助けようとはしない。遠巻きに見ているだけだ。下手に手を出して、自分たちに火の粉が降り掛かるのを恐れたからだ。

 それは、エモンズ大司祭も同じだった。ただ彼の場合は、静かに状況を観察していた節もあるが。他の者たちは気付かなかった。

「此奴はもはや我の子に非ず!! この世界を欺いた大罪人だ!! 右手を切り落とし魔獣の餌にしろ!! よいな!!」

 国王は怒声と共にそう命を下す。その冷酷な声に逆らえる者はこの場にはいなかった。

 そう……この場にはーー


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