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第八章 死亡フラグと監禁フラグ、同時に叩き折ってやります

廃神殿と聖竜

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 廃神殿っててっきり聖教国内にあるんだと思ってたけど、意外や意外、聖王国内だった。といっても、一キロ先は聖教国だけどね。

 でもまぁ、内心、聖教国に入国しなくてホッとしてるかな。なんか、嫌なんだよね。目は隠せるからいいんだけど……神官自体に拒否反応が。神官にも色々違うってわかってはいるんだけどね。なんせ、良い思い出なんてないから。

 そのせいで、廃神殿だけど神殿内に足を踏み入れたのは初めてだった。当然、内部をこんなにマジマジと見たのも初めて。

 床板は所々穴が開いてて、崩れてる所もあるけど、でもなんか……空気が澄んでいて綺麗だと思った。

「澄んでいて綺麗だろ? 本来、神殿ってこうあるべきなんだ」

 キルが私の隣に立って言った。

「うん、澄んでて綺麗。なんか、包みこまれてる感覚がするね。聖王国の神殿とは大違い。まぁ、神殿に入ること事態、初めてなんだけどね」

「……アキにとっての神殿って、負の象徴、そのものだからな」

 ケイ兄さんが後ろから声を掛けてきた。

「神殿だけじゃないよ、神官もそう、神殿に関するものはできる限り避けたいよ。でも今回だけは、私から歩み寄るべきだと思ってる」

 後半、私は振り返りながら言った。

 どうやら、ギルマス、ちゃんと仕事をしてくれたみたい。完遂してくれると信じてはいたけど、少し不安だったの。なんせ、時間がなかったからね。

 廃神殿の入口に、足先が隠れるまでの白いローブを身にまとい、フードを目深く被った男性と、その両背後に同じ格好をした男性が立っていた。後ろの二人は顔を隠してはいない。一人は見覚えがあった。

 冒険者ギルドにいた人ね。私に話し掛け、鑑定魔法を掛けてきたやつはいない……いや、いる。

 私が振り返ると、背後の二人は頭を垂れ片膝を付いた。

 仰々しい態度に眉をしかめそうになるけど、グッと我慢する。私たちは頼みに来たんだから。

「少しでもそう思っていただけて、心から嬉しく思います、アキ様」

 頭を軽く下げ、中央の男性はそう告げるとフードを外した。

「……まさか、教皇様自ら聖王国に来ていたとは思いもしませんでした」

 私の台詞にキルが豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしている。私も驚いたよ。

「あの時は、不躾な願いと行為をしてしまい、申しわけありませんでした。心から謝罪いたします」

 再度、教皇様は頭を下げた。

「謝罪は不要です。それに、私に頭を垂れる必要もありません。立ってください」

 私がそう告げると、後ろの二人は教皇様を見、彼が頷くとようやく立ち上がった。

「慈悲を掛けていただき、ありがとうございます。あの……ところで、アキ様、アキ様の頭に張り付いている御方は、もしや、聖竜様ですか!?」

 めっちゃ興奮してるよ、わなわな震えて、はぁはぁ言ってるし。

『僕はセイだよ。ニノリスお兄ちゃんも僕のことそう呼んだけど、聖竜って何?』

 お兄ちゃん呼び、いつから!? っていうか、セイ、自分が聖竜だって知ってるよね。ということは、仕込みか!?

「あ~~聖竜様から御言葉が貰えるとは……」

 全員がひれ伏しちゃったよ。いや、感動で打ち震えてるの……ニノリスさんが連れて行くって言った意図が理解できたわ~。勿論、一芝居させてることも。良い笑顔だね。

『僕の質問答えてよ』

 反対に、セイはちょっと怒ってる。隣を見れば、キルは灰になっていた。だよね、聖竜様に一芝居打たせてるんだから。

「はい。聖竜様とは、聖王様と共に旅をし、この地を平和に導いてくれた一柱です。そして、聖王様亡き後は聖王様に代わり、この大地を守護する聖なる御方だと認識しております」

 慌てて、教皇様は答えた。

『ちょっと違うよ。僕はクロードに置いていかれたの。最終決戦には連れて行けないって。たぶん、クロードはわかってたんだね、自分が死んじゃうって。クロード、戦いが終わったら迎えに来るって言ってくれたんだよ、でも、迎えに来なかった。僕はずっとずっと待ってたの。そしたら、アキが現れた。僕に手を差し伸べて、連れ出してくれたの。一緒に行こうって言ってくれたの。クロードは約束を忘れてなかった……僕は、それが嬉しいの。だから、お願い。アキのお願い叶えてあげて』

 ちょっと感動ものだけど、言ってること嘘じゃないけど、ここまで言う必要ある? これも、仕込みか!? それよりも、遠回しに、私が聖王様の生まれ代わりだって断定してない!? 

「当然です。なんなりと申し付けくださいませ。我ら聖教国、アキ様のためならどのようなことでもいたしましょう。望みも叶えましょう」

 泣きながら、宣言されちゃったよ。

「……あ、ありがとうございます。助かります」

 あれよあれよと言う間に、承諾を得られたよ。暗殺者ギルドといい、気合い入れてたのに全部空振り。なんにもしてないのに、どっと疲れたよ。

「それで、私たちに何をせよと?」

 この大陸で一番偉い方が、私にキラキラした期待の目を向けてる。まるで、忠犬が飼い主の命令を待ってるみたい。胃痛くなりそう……

 セイはクイクイと私の袖を引っ張る。ニコニコしながら抱っこをせがんできた。もうなるようにしかならないか。私は軽く溜め息を吐いてから、セイの頭を撫でてから抱っこした。

 私はセイに視線を移してから、家族と仲間に視線を向ける。皆、優しくて温かい目で私を見ていた。

 腹を決める時がきたみたいね。認めたくなくても、薄々はそうだって思ってたから。

「頼みたいことは一つ、聖王国に向けて宣言してほしいことがあります」



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