大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

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第八章 死亡フラグと監禁フラグ、同時に叩き折ってやります

暗殺者ギルド

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 暗殺ギルドの本部があるセルシストの村にやって来た私たち。

 村に入った途端、皆の目がユリアとケイ兄さんに注がれた。ケイ兄さんもユリアも立ってるだけで、人の目を引くからね……キルがいた時は、それほどでもなかったのに、相手が変わるだけでこれか、まさかの相乗効果。ま、眩しい!!

「アキ、どうした?」

 ちょっと距離を取った私を、ケイ兄さんは不思議そうに見ている。そして、近付くと、私の髪をくしゃくしゃにしてしまう。

「別に~あっ、子供扱いしないで」

 拗ねたりはしてないわよ。平凡には平凡の良さがあるんだから。

 くしゃくしゃになった頭を手で直していると、背後に立ったユリアにササッと直された。

 その服の下に隠してるのは暗器だけじゃないの?

「では、早速案内します」

 元通り以上になった所で、ユリアは私とケイ兄さんにそう告げると歩き出した。

 歩くこと、五分。

 ユリアが立ち止まったのは、宿屋の前だった。

「ここが、そうなの?」

 ドアの前に立っていたら、陽気な店員の声が聞こえてきた。

 宿屋の周りは草一つ生えてなくて、花壇もある。宿屋にしたら、結構良い部類の宿屋だよ。数件ある宿屋から今日の宿を決めるなら、ここにするくらいの宿屋だね。

「はい。この宿屋に働いている全員がそうです」

 マジで。そりゃあ、情報が入手し易いといえばし易いけど……陽の光に満ちた陽気な宿屋って何?

「想像してたのと違うんだろ。てっきり、スラムの地下を想像してたか?」

 ケイ兄さんは全く驚いてない。

「……さすがに、そこまでは想像してなかったけど、似た所は想像してた」

「それ、わかる。俺も始めはそう考えてたしな。でも、よく考えてみろ。裏稼業が身を隠せやすいのは地下よりも、こっちだろ」

「そうかな……同じ系列のものどうしの方が、溶け込めて目立たないと思うけど」

「それは違うな。一度、ちゃんと周囲に溶け込めたなら、あとはよほどのことがない限り、裏の奴らとは思わない」

 なんとなく言いたいニュアンスはわかる。人は一度思い込むと、なかなか認識を変えれない生き物だから。そこをついたってわけね。

「……奥が深いね」

「それでは、ご案内します。アキ様、ケイ様」

 きりがいい所で、ユリアが声を掛けてきた。

「うん、わかった」

 なんか、緊張するな。だって、暗殺ギルドの本部だよ。皆、暗殺者さんだからね。

「「「いらっしゃいませ!!」」」」

 三人の店員さんが同時に挨拶。作業中なのに、皆爽やかな笑顔だよ。

「部屋は空いてますか?」

「空いてますよ。どの部屋になさいますか?」

 カウンターにいる若い女性が尋ねてきた。

にしてもらえますか?」

 ユリアがそう口にした時、ほんの一瞬だけど、店員さんたちの雰囲気が変わった気がした。

 なるほど……そういう仕組みになってるのね。

「南の角部屋ですね。わかりました。ご案内しますね」

 女性の店員がそう言うと、若い男性が「ご案内します」と、私たちの前を歩き出す。私たちは無言で後を付いて歩き、部屋に通された。

「すぐに、お茶を用意しますね」

 男性店員はそう声を掛けると、部屋を出て行った。足音が遠ざかる。

「……南の角部屋が合図なんだね。ユリアがそう言った瞬間、店員さんの雰囲気が変わったよね」

「さすが、アキ様です。ほんの僅かな変化を感じ取るなんて。それに比べて、あの者たちは……生温い。及第点には遠く及びませんね」

 ユリアが溜め息を吐きながら言う。

 ユリア、それは私だからであって、普通の人は気付かないレベルだよ。

「なかなか厳しいな、ユリアは。よく帰って来たな。元気そうでよかった」

 私たちが入って来たドアと違うドアから、中年の男性が二人入って来た。

 前にいるのが、ユリアのお父さんね。そして後にいるのが……あっ、この前伝言頼んだ人だわ。ニコッと微笑むと、苦笑された。

「帰省したわけではありません。我が主が貴方に用があるので、お連れしただけです」

 お父さん、敵なの!? めっちゃ、声冷たいんだけど。久し振りの親子再会だよね、もうちょっと感情が高揚しないかな~

「あいかわらず、ユリアはクールだね。まぁそこが、ユリアの魅力なんだけど……普段、クールな娘が不意に崩す表情が、すっごく可愛いんだよ!! さぁ、微笑んで!!」

 あ……ユリアが死んだ魚の目をしてる。なんとなく、ユリアが家に帰らなかった理由がわかったわ。

「それ以上、近付くな。ゴミ虫が」

 底冷えする声。

 ナイフを構えて、今にも臨戦状態突入。

 お父さんこと暗殺ギルドのギルマスは、ご機嫌そうにニコニコ笑ってる。なかなか、過激な挨拶だよね。でも、さすがに、ナイフを向けるのは駄目。

「ユリア、そこまでにして、とりあえずナイフをしまおうかな」

 ユリアの腕に片手を乗せて言った。渋々、ユリアはナイフを下ろす。しまいはしないんだ。

「はじめまして、アキと申します。娘さんには世話になっております」

「ご丁寧に。話を聞く前に、配下の命を助けて頂き感謝する」

「いえ、いえ。ついでに伝言を頼みましたし」

「その件なら、ちゃんと伝言しておいた。それで、何用でここに?」

 ガラッと雰囲気が変わる。ギルマスだけど、まだまだ現役を張れる感じ。鋼のような人だね。しなやかで、とても強い。

「おりいって、お願いがあり伺いました。繋ぎを取ってほしいのです。私を監視するよう依頼した、聖教国の神官に」

 さすがだね、表情一つ変わらないよ。

 ここから交渉が始まる。無茶な依頼だとわかっているけど、なんとしても、受けてもらわないといけない。唯一の糸口だから――






☆☆☆

 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

 実は、新連載スタートしました。

 タイトルは〈幼馴染と義妹、合わされば最強だと思いませんか? 悪い意味で〉です。

 鋼のメンタル少女が、痛い親と痛い婚約者から逃げ、自分の居場所を兄姉の手を借りながら掴み取るお話です。

 読んでもらえると嬉しいです。

 これからも頑張って書いていきますね。


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