大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
97 / 104
第八章 死亡フラグと監禁フラグ、同時に叩き折ってやります

作戦会議(二)

しおりを挟む

「教皇様に会うって……簡単に言うけどな…………」

 ケイ兄さんが呆れながら言った。

 コネがあったとしても、おいそれと会える存在じゃないからね。Sランクのケイ兄さんもニノリスさんも、会ったことはまだないらしい。会える人も一握りだって聞くよ。

 完全に、雲の雲の、はるか上に存在する人。

「全く可能性がないわなけじゃないわよ。とりあえず、あの神官に面会さえできれば道はひらけるわ」

 限りなく細いけどね。ゼロじゃない。

「あの神官? って、前にギルマスの所で会ったあの聖教国の神官か!?」

 キルが納得した顔をする。

「〈聖王の器〉の護衛を頼まれた件か……いきなり、鑑定魔法を使われたって言ってたよな」

 ケイ兄さんの顔が少し歪む。

 ケイ兄さんとニノリスさんには一応話してあったからね、すぐに誰を指してるかわかったみたい。

「そうそう。私もできれば関わりたくないけど、ここは背に腹は代えられないでしょ。我慢するわよ、色々。でも、こうなるってわかってたら、名前くらい訊いてたわ」

 あの時は、神官だからって邪険にしてたからね。マナー違反はされたし、別に邪険にしても咎めはされなかったんだけど。

「なら、ギルマスが知ってるんじゃないか? 元々はギルマスを通して依頼してきたわけだし」

「キルって、今回冴えまくってるね。今から、ギルマスに訊いてくる」

 部屋を飛び出そうとしたら、ニノリスさんに止められた。ちょっと、イラッとする。

「何?」

「とりあえず、座れ。神官の名前がわかっても簡単にはいかないだろ」

 ニノリスさんが肩をすくめなから言った。

「確かに、ニノリスの言う通りだな。相手は、仮にも〈聖王の器〉を回収に来た神官だぞ。それなりに、高位の神官だろう。真正面から面談を申し込んでも、一蹴いっしゅうされるか、何年も先になる可能性が大だろ」

 確かに、ケイ兄さんの言う通りだ。何年も待てやしない。名前だけ知っても、それが武器や鎧になるのはかなり先。

 前段階で積むわけにはいかないの。

 考えろ!! 考えろ、アキ!! 思い返せ!! 

 記憶からヒントを得ようとして思い返していると。あることを思い出した。

「……あっ、聖教国の神官と繋がりがある人いたわ」

「誰だ?」

 ケイ兄さんが尋ねる。

「暗殺ギルト。私の監視を依頼されてた。そんな依頼をするってことは、聖教国側は私との繋がりが欲しいはず。なら、そこを突けばいい」

「……そうだね。そこが、一番確実だ」

 ニノリスさんが私の案に乗ってくれた。

「ニノリスさん、ユリアいる? できれば一緒に行きたいんだけど」

 ユリアは暗殺ギルトのギルマスの娘。

 こんな風にユリアのことを使いたくはないけど、失敗は許されない以上、使える手は使うべきだと思う。

「今、呼ぶよ。そろそろ、頭が冷えた頃だと思うし」

 クスリと笑うニノリスさん。思わず、キルと私は身体をけ反らせる。知らないうちに、何かのスイッチ押しちゃったみたい。 

「……ありがとう」

 お礼も小声になるよ。

「じゃあ、ここからは二手に分かれるか。ギルマスんとこには、キルとニノリスが。セルシストには俺とアキ、ユリアで行く」

 うん、妥当な班分けだね。暗部たちの主人なんだから、できる限り遠くに行かない方がいいよね。でも、神官と会う時はいて欲しいかな。

「仕方ないな、それでいくか……アキ、会う日取りは三日後に指定してくれる。場所は廃神殿と言えばいい。余計な情報は流さず、要点だけ伝えるんだよ」

「三日後で廃神殿だね。うん、わかった」

 私がそう答えた時、ドアをノックする音がした。ニノリスさんが入るよう促すと、ドアはゆっくり開き、ユリアがいつものメイド服を着て入って来た。

 そして、私を見るなり、部屋の隅に隠れてしまったよ。ブルブル震えてる。まるで、新しい部屋に来た飼いウサギのよう。

 なんで!?

「何してるのかな? ユリア」

 ニノリスさん、微笑みながら額には青筋が。

 私はユリアの傍まで移動すると、しゃがみ込む。

「ユリア久し振り。元気にしてた?」

 顔を下から覗き込む。

「……勝手にキルに嫉妬して、情けない所を見せてしまいました。アキ様にも嫌われて……」

 力ない声で、ユリアはぽつりぽつりと話し出す。

「えっ!? 別に嫌ってないけど」

 そもそも、一度も嫌いなんて言ってないけど。

「本当ですか!?」

「本当だよ!!」

「良かった~~!!」

 ユリアは私をギュッと抱き締めた。久し振りのユリアの抱擁は、温かくて、やっぱり苦しかったよ。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...