大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

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第七章 知らない所で死亡フラグと監禁フラグが立ってます

セルシストの森と池と精霊石

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 本当に、そんなことできるの? ケイ兄さんも知らなさそう。

 魔石を媒介にして、声や映像を残す技術は確かにある。それを、遠くにいる存在に直接届ける魔法具も存在する。

 とはいえ、スタンピードの時に使っていた通信の魔法具の使用距離は、精々二十キロが限度。それ以上高性能な魔法具は知らない。

 ちなみに、セルシストの森から聖王国までは、荷馬車で有に三か月は掛かる僻地の中の僻地だ。

「誰にも内緒だよ。森の民特有のスキルみたいなものかな」

 そう言いながら、モアさんは裏庭を進んで行く。私とケイ兄さん、そして狼さんもその後を付いて歩いていた。キルはお留守番。鶏さんは警備担当。モアさん、ドアに鍵閉めないから。

 少し歩くと、少し空気が変わったのを感じた。肌寒い。私はケイ兄さんを見上げる。ケイ兄さんは小さく頷いた。

「さすがだね、二人とも。ここは、セルシストの森の最深部。いや、中心部って言った方がいいかな。セルシストの森は、ここを護る城壁みたいなものだから」

「モアさん、そんな大事なこと言っちゃっていいの!? 信用されてるのはうれしいけど」

「大丈夫」

 モアさんはあっけらかんと笑って答える。

「でも、心配になるよ。私の我儘のせいで、モアさんが禁忌を犯してるかもしれないし。すくなくとも、部外者を聖域に入れたことは間違いないから、罰があるんじゃないの……」

「犯してはいないし、罰もないから安心して。この場所に二人を招いたのも、ちゃんと理由があるから」

「理由?」

「魔法の媒介に必要なものが、この奥にあるんだ。それをアキに取って来てもらいたい」

 モアさんの台詞に、ケイ兄さんの眉間にしわ
が。それを無視して、私はモアさんに尋ねた。

「必要なもの?」

 言い終わらないうちに、視界がひらけた。そこには、湖と呼ぶには小さい真っ青の色をした池があった。

 近付いて気付く。水の色は空の色だって。水の透明度がずば抜けてるだね、空の色を反射してこの色に見えてるだけ。

「綺麗……」

「でしょ。それで、アキにしてもらいたいのは、この水底にある精霊石を取って来て欲しいんだ。そんなに深くはないから。危険な魔物は存在しない。ただ、主はいるけどね」

 主か……

 魔石ではなく、精霊石ね……納得だわ。通常の魔石では負荷が掛かり過ぎて耐えきれないよね。

「主に攻撃はしない方がいいよね」

「できれば。それに、今のアキでは勝てないよ」

 水中戦だから当然か……完全に私はアウェイだ。

「攻撃してくる可能性はあるよね」

「絶対にないとは言えないね」

 モアさん、素直。じゃあ、準備しようかな。水魔法で私の周りに膜を張れば、水中でも呼吸はできる。風魔法を靴に掛けていれば、速く潜れるわ。膜を張れば、時間制限はあるけど、一応濡れないし。問題は、水魔法が切れた時のこと。念のためにローブは脱いだ方がいいわね。防御力は下がるけど、身体に張り付いたら重いし、さらに動きにくくなる。

 躊躇ちゅうちょすることなく、ローブを脱ぎ始めると、ケイ兄さんか慌てて止めに入った。

「アキにそんなことさせられるか!! 必要なら、俺が取ってくる!!」

「ケイには無理だよ」

「何故だ!?」

「そもそも、その水に触れることができないからだよ。この水に触れることができるのは、神聖魔法のスキルを持っているか、精霊王の加護がある者だけだ。ケイはどちらも持っていないだろ」

 なるほど、だから、私はこの水に触れることができるんだ。モアさんは両方持ってそうだね。

「なら、やっぱり、俺が直接聖王国に行けばいいだけだ!!」

 そんな言い争いをしているうちに、私は軽く腕を伸ばして屈伸してから、スタンピードの時に使っていた通信用の魔法具をモアさんに投げて渡した。私も耳に装着する。

 準備万端。

「アキ!!」

 ケイ兄さんが手を伸ばしてくる。私はそれをさらりとかわした。そのまま、「じゃあ、行って来ます」と二人と狼さんに声を掛け、池に飛び込んだ。

 
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