70 / 104
第六章 死亡フラグ回避のため断固拒否します
仲間の過去は詮索しません
しおりを挟む「二人とも、森に入る前に、これ、腕にはめといて」
そう言いながら、私はキルとユリアに装飾のない銀の腕輪を渡した。
「これは?」
そう訊きながら、キルは腕にはめる。すると、キルの腕に合うように大きさが変わった。すでに、私とユリアは装着済み。
「慰み程度だけどね、あらゆる毒を無毒化するマジックアイテムだよ。でも、この森の濃度なら、完全に無毒化はできないけどね。だから、状態異常を回避する魔法と身体強化の魔法を重ね掛けしておいてね。それで、即死は免れると思うから」
たぶん……
この言葉は飲み込む。毒耐性のスキルがあれば大丈夫なんだけどね。キルは持っていないみたいだから。あまり怖がらせるのもどうかと思うし、キルの裸見たくはないからね。
それに、これはいい機会だよ。
毒耐性のスキルを習得できれば、討伐に専念できるからね。中には、毒攻撃してくるやつや、毒の体液を持っている魔物もいるから、それらを気にせず討伐できるでしょ。
スタンピードで湧いてくる魔物は特に毒系多いし。瘴気も一種の毒だからね。まぁ呪いもプラスされてるけど。毒耐性のスキルあるとないとでは大きい差が出るよ。
これからも、スタンピードの最前線に立たなきゃいけないんだから。
「この腕輪……神器に次ぐ、超レアアイテムだよな」
元神兵、オリジナルを知ってるみたい。
でもこれは、オリジナルを参考にして作られたレプリカなの。でも、効果はオリジナルを越えてるけどね。
製作したのはニノリスさんだよ。勿論、家族割だけど、ちゃんと自分のお金で買ったわ。そういう所はきちんとしなきゃね。
「腕輪に魔法を付与した、レプリカだよ。じゃあ、潜ろうか」
私たちはセルシストの森の中に入る。
そして、ずんずんと森の中を進んで行く。
「木々や植物は呼吸するでしょ、でもね、このセルシストの森の木々や植物は毒も一緒に吐き出すの。この辺りはまだ微量だけどね、奥につれて濃度は濃くなるわ。瘴気とは違うんだけどね。まぁ、微量と言っても吸い続けたら、毒に侵されて動けなくなるよ、そしたらアウト。奴らの餌になる」
気付いてるでしょ。私たちが倒れるのを待ってる魔物たちの気配。賢いよね。
「つまり、ここはあいつらの狩り場か……」
その通り。飲み込み早くて助かるわ。
「そう、ここは狩り場。でも、簡単に狩られるわけにはいかないけどね。そうそう、魔猪と魔鶏は率先して倒してね」
持ち込み用に。
「どれくらいいりますか?」
ユリアが訊いてきた。
「最低、十ずつかな。足りなければ、また狩りに出ればいいだけだし」
「豚はどうします?」
「あ~オークね……」
確かに美味しんだけどね……
「嫌いだったか? 普通に食べてただろ?」
普通に食べてましたね。なんなら、おかわりしてたよね。分厚いオーク肉のステーキ、牛さんと違って、なかなか美味しかったよ。食べ比べ最高よね。思い出したら、よだれが……危ない、危ない。
美味しいんだよ。美味しいんだけど……
「肉になった状態なら、大丈夫なんだけど。現物はちょっと……」
オーク肉は庶民の中でもわりと普通にある。部位と個体の大きさ、若さによって値段も変わるけど。
でもね……二足歩行の豚だよ。四足歩行じゃないんだよ。ましてや、大きいし。よだれ垂れてるし。汚い布か鎧装備してるし。討伐するのはいいけど、それを見た後、オーク肉を食べる勇気はないわ。
「変な所で繊細だな」
そうキルに言われて、私は苦笑いするしかなかった。
間違いなく、過去世の影響だよね、これ。
だって、この世界に四足歩行の豚なんて存在しないもの。家畜の概念も低いしね。相手が魔物だから仕方ないけど。
「討伐するのは大丈夫なんだけどね。魔石みたいなドロップアイテムとして、肉が落ちてたらいいのに」
「その方が、俺は嫌だな。地面に直にだろ?」
確かに。菌一杯ついてそう。
「言った私も嫌だわ」
「火をきちんと通せばいけると思いますが」
そういうことじゃないんだよね。気持ちの問題なんだよ。
ユリアって、こういう機微が伝わらないことが結構あるんだよね。食べたことがあるから言えることなのだと、私は思う。
詮索するつもりは、始めからないよ。意味がないからね。私は今のユリアを信じてるから。
「ここだったら、かなり火を通さなきゃ駄目だよね。絶対、消し炭になるよ」
私は笑いながら答えた。
それにしても、まだ付いて来てるわ。そろそろ、引き返したらいいと思うけど。何事も、見極めは大事だよ。でないと、食べられちゃうよ。
そんなことを考えていると、ユリアが訊いてきた。
「アキ様、蛇はいりますか?」
脳天を貫通させた大蛇を引きずりながらね。
173
お気に入りに追加
464
あなたにおすすめの小説

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。

婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜
和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」
王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。
※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27)
※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる